第九十四章 その頃の彼ら 6.「ワイルドフラワー」~現在の状況~
そんなこんなで使役職専用クエストを受ける事になったカナとセン、並びにその他のメンバーが、ネイサンから――ざっくりと――教えられた目的地方面に向かって移動を開始したというのが試験週間直前、リアルで先週の事であった。
クエストを受注したカナとセンが試験明けまで本格的にログインできないという事で、高校生組以外のメンバー――有り体に言ってしまえば、大学生であるエリンとサフラン――は経験値上げと二人への支援を兼ねて、適当に辺りをぶらついて情報収集に当たる事にしていた。
そして、目出度く――目出度かったかどうかは、答案が返ってきてから確定するのだが――試験が終わったという事で、「ワイルドフラワー」は活動を再開する事になったのである。
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「……だったら、目的地はナンの町南東の山――という事でいいのね?」
「住人からの情報に拠ると、そうみたいね」
「サンチェス船長が言ってたとおりだよね」
「だけど裏付けが取れたのと、より正確な場所が判ったのは大きい」
――などと会話しつつ目的地を目指していたが、
「……ねぇ、お願いがあるんだけど、いいかしら?」
「カナちゃんのお願い?」
「聞くのが怖いような気がするけど……」
普段からどういう目で見られているのかが察せられるようなコメントである。
「いえ、別に何かをしてほしいと言うんじゃないのよ? 寧ろその逆ね」
「逆?」
「……って、まさか……」
「えぇ。戦闘だけど、少なくとも最初は私だけ……私とサンチェスだけにさせてほしいの」
全員が立ち止まり、難しい表情でカナ――とサンチェス――を見つめる。それというのも……
「でもカナちゃん、相手はイビルドッグだよ?」
「ん、一パーティくらいじゃきつい相手。はっきり言って無謀」
「……カナ、そうしたい理由は何? 経験値の独占なんて理由じゃないよね?」
「『無謀』の称号狙いとか?」
「そんな称号あるの? ……いえ、別に称号狙いとかじゃなくて……」
カナが説明した理由とは、以下のようなものであった。
「……ペナルティ――かぁ……」
「えぇ。ネイサンさん――言いにくいわね、これ――の答え方が気になったのよ。〝他のメンバーの協力を得ていいか?〟と訊いた時、〝一緒に行くのは構わない〟って答えが返ってきたの、憶えてるでしょう?」
「あぁ……そう言えば……」
「返事、イエスでもノーでもなかったっけ」
「ん、答えるのにも妙な間があった」
「思わせぶり……と、言えるかもね……」
「つまり、どういう事? カナちゃん」
「手助けを受けたら失敗扱いになるって?」
「いえ……さすがにそこまでの事はないと思うけど、減点される可能性はあると思うのよ」
成る程、その可能性はあるかもしれない――と得心するメンバーたち。しかし、
「でもさぁ、相手はイビルドッグだよ? 単独討伐なんて条件、設定するかな?」
リーダーのエリンが表した疑義に、他のメンバーも口々に同意を示す。だが、その中にあって、
「……リーダーの意見も尤もだけど、従魔術師や召喚術師にはソロも多い。結果的に単独討伐になる事は、結構ある筈。運営が考えてないとは思えない」
――ミモザが別視点からの異論を唱えた。
「あぁ……それはあるか……」
「けど、ソロでイビルドッグ討伐がクリアー条件? どんな無理ゲーよ」
「いや……敵モンスもソロって事は、運営もその辺りを考慮してるのかも……」
「えぇ。それに、ミモザの意見に付け加えると、クエストの難易度は従魔の能力によって決まるんじゃないかと思うのよね。根拠は、私とセンちゃんに振り分けられた依頼の内容」
「あぁ、そう言えば……」
「センは採集依頼だったっけ」
今回のクエストでカナに与えられたお題はイビルドッグの討伐であるが、センのお題はとある茸の採集であった。
好窒素性というのか好燐性というのか、動物の骨や屍体、糞などが集まった場所に発生し易いという性質がある。イビルドッグは獲物を縄張りの中に運び込んで食べ、骨などの食べ滓は一ヵ所に纏めておく性質がある。なので一緒に行った方が面倒が無いだろう――というのがネイサンの提案であった。
「サンチェスは従魔としてのランクは高いみたいだし、センちゃんのスライムも特異個体でしょう? それでハードルが上がったんじゃないかと思うのよ」
「……サンチェスを従えているカナの場合は討伐難度が、特異個体のスライムを連れているセンの場合は採集難度が、それぞれ高い訳か……」
「ネイトさん、イビルドッグの習性までは教えてくれなかったもんね……」
「まぁ、食べ滓を纏めるっていう習性については、公開された情報にあったんだが……」
「でもさ、これだとセンのお題がきつくない? どのみちイビルドッグを斃さない駄目だよね?」
「そうでもないだろ? 件の茸は、別にイビルドッグのゴミ捨て場にしか生えないって訳じゃないんだし」
「ん。イビルドッグが留守の間にゴミを漁る事も可能」
「あぁ……それもそうか……」
「話が少し逸れたけど……要するに運営も、討伐できないモンスターを指定する事は無いんじゃないかと思うのよね」
成る程、そういう理由があるのなら、少なくとも最初はカナに任せるのも悪くないか。要請があったら乱入すればいいだけだ。
「……もう一つ、それとは別に気になっている事もあるのよね……」
「もう一つ?」
「えぇ。仮にも従魔術師(の卵)に対して、従魔術師がモンスターの討伐依頼を出した事が引っかかるのよ」
「それって……」
「運営からの情報の他に、掲示板とかの情報も漁ってみたんだけど……イビルドッグがテイム可能かどうか、明示された記述は無かったのよね」




