第九十四章 その頃の彼ら 5.「ワイルドフラワー」~これまでの経緯(その3)~
その時の彼女たちの内心を一言で言い表すとしたら、〝キタ――! \(^o^)/〟であろう。
前回宙ぶらりんとなっていたクエストが四日ぶりに進展を見たというのであるから、その意気込みも一入である。
さぁさぁどんなクエストなんです?魔獣討伐ですか?宝探しですか?――と前のめりの一同に提示されたのは、
「この手紙を、ウィルマからだと言って、ネイサンって小父さんに届けてほしいのよ。届け先は今から教えるわ。その後の事は、ネイサンに訊いて頂戴」
前回と同じ届けものの依頼であった。
ただし、前回と違っていたのは――
「あの……ウィルマさん――っていうのは……?」
「あぁ、名告るのが遅くなって御免なさいね。ウィルマというのはあたしの事よ。これでもイーファンのギルドで従魔術師をやってるの。そっちにいるのはあたしの祖母で……」
「アガサだよ」
クエストのトリガーキャラだと思っていた二人から、その名を教えられた事だろう。前回は名前を教えてもらう展開は無かったのだ。
「あ……こちらこそ、先輩を前にして名告りもせずに失礼しました。私はカナ、そっちの子はセンといいます。後の三人は、私たちの仲間で――」
後に控えていた三人も、それぞれに自分の名前を名告っていく。ついでに自分たちがこの地を訪れた経緯も。
「……そう。貴女たちもバーバラ先生の生徒だったの。だったら、あたしの後輩になる訳ね」
「あの……ウィルマさんも?」
「えぇそう。尤も、この国の使役職はほぼ例外無く先生の生徒だけどね。ネイサンもその点は同じだから、先に挨拶した方が良いかもね」
――と、そういう話を聞かされた後で、「ワイルドフラワー」の一行は、嘗て通った山道を再び、ネイサンという人物の家を目指して進むのであった。
「……セン、さっきから何にやけてるんだよ?」
「だって……うぷぷ……小父さんなのに姐さんだって」
ベタな駄洒落がセンのツボに入ったらしい。だが……
「センちゃん……確かネイサンっていうのはヘブライ語で、〝神の与えしもの〟――だとか、そんな意味だったと思うわよ?」
仮令NPCであっても、人の名前を揶揄いのネタにするのは感心しない――というカナに窘められる事になった。
そう言う彼女自身もリアルでは、要などという男か女か判らない名前のせいで、揶揄われた事も一度や二度ではないのである。……まぁ、そんな愚か者は一人残らず、彼女にポッキリと心を折られているのであるが。
なので……
「……御免なさい……」
センも素直に謝るのであった。
ともあれこういう一幕芝居の間も、一行はネイサン宅を目指して進んで行った。
・・・・・・・・
「ほぉ……お前さんたちもバーバラ師匠の教え子かね」
ウィルマからの手紙を受け取った初老の男性――前回会ったのと同じキャラ――は、自分の事をネイトと名告った。不思議そうな表情のセンに、後でこっそりミモザが解説している。〝ネイト〟は〝ネイサン〟の愛称であると。
「はい。あの……ウィルマさんからは、ネイトさんの指示に従うようにとだけ言われているんですけど……?」
「ふむ……。あの子は全く……面倒な事は他人に押し付けたがる癖は直っておらんようだな。……そういうところはアガサ婆によぅ似ておるわ」
そうなのか!?――と内心で驚くカナ。見た感じでは面倒見の好いお姉さんに思えたのだが……。このゲーム、住人の性格設定も一筋縄ではいかないようだ。
「まぁいい。話というのはだな、ウィルマと俺からそこの二人に頼みがあるって事だ」
キタ――! \(^o^)/
「……私たち二人への依頼という事ですね?」
「まぁそうだな。使役獣を持っていないんじゃ、ちと荷が重かろう」
「私たちはパーティを組んでいるんですけど、離脱して別行動を取れと?」
「いや? 一緒に行くのは別に構わんぞ?」
「……依頼の内容を伺っても?」
「あぁ。ナンの町の先にある山から、俺とウィルマに素材を採ってきてほしい。……邪魔者を片付けてな。それだけだ」
《使役職専用クエスト「先達からの依頼」が発生しました。クエストを受けますか? Y/N》
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ざっとこういう次第で、「ワイルドフラワー」の面々は先達からの依頼を果たすべく、ナンの町南東の原野を目的地に向かって進んでいるのであった。




