第九十四章 その頃の彼ら 3.「ワイルドフラワー」~これまでの経緯(その1)~
シュウイが領主への謁見を熟し、タクマたちがヴォークの実を探し廻っている頃、「ワイルドフラワー」の面々は何をしていたのかと言えば――
「うぇぇ……この先にまたゲジゲジがいるみたい」
「またなの……?」
「だって、スーちゃんがそう言うんだもん」
……センの従魔であるスライムの名前は、どうやら「スーちゃん」に決まったようだ。スライム――しかも特異個体――ならではの高い索敵能力で、主人たちに貢献しているらしい。
「……とにかく迂回しましょう。その子の索敵能力が高いのは判ってるんだし」
「そりゃそうだけど……この調子で遠廻りしてると、目的地に着くのはいつになるのか……」
「あら? リーダーがゲジゲジを退治してくれるのなら、私はそれでも構わないわよ?」
「……遠慮する……」
――尤も、現時点では獲物を探すと言うより、苦手モンスターを回避する道案内として使われているようだ。まぁ、使役主とその仲間が働きを認めてくれているのは、スライムにとっても悪い事ではない筈だ。
話が些か前後したが、彼女たちが現在いるのはナンの町の南東部、人跡稀な原野という雰囲気の場所である。
イーファンの宿場外れにいた筈の「ワイルドフラワー」が、何でまたこんなところへ迷い込んでいるのか?
試験明けの寄り合いの席では要たちは多くを語らなかったが、読者の便宜を考えて、ここでこれまでの経緯を概観しておこう。
・・・・・・・・
自分たちの使役獣が欲しい「ワイルドフラワー」の面々――センとカナを除く――は、あの後一日ほどを費やして、イーファンの宿場郊外の森で従魔候補を探す事にした。欲しいのは壁役と先行偵察員というところであったが――
「だけどさぁ、壁役とかこの辺りのモンスターには無理じゃないの?」
トンの町近郊にはそれなりに大型のモンスターも出て来たが、イーファンの宿場近くに出るモンスターは小柄なものが多い。体躯の大きさと強さは必ずしも一致しないとは言え、壁役を任せるには向かないだろう。
もう少しナンの町に近付くと大きなモンスターも出て来るのだが、こちらは昆虫系のものが主体になる。少女たちの感性的に、遠慮したい相手である。既に粘液生物をテイムしておきながら――という意見もあるだろうし、サンチェスはサンチェスで大型昆虫系のモンスターを壁役にと推してきたが……やはり嫌なものは嫌なのであった。
「だったら偵察要員? 小鳥とか?」
「でも、単独で先行させるんでしょう? 危なくない?」
「この辺りにいる小鳥とかだと難しいかも……」
それ以前に、どうやって小鳥をテイムするかという難題も控えているのだが、そこはサラリとスルーである。〝精神一到何事か成らざらん〟とも言うではないか。
「それなりに強いモンスターという事になると……やっぱりここより先?」
「でもリーダー、ナンの町には鳥系のモンスターって、いなかったんじゃない?」
「確かに報告は無かったような……」
――などとぼやいていたところへ、またしても爆弾を投げ込んだのがサンチェスである。
「……いえ? 然様な事は無かった筈でございますが? 失礼ながら、探す場所を間違えているのではございませんか?」
サンチェスの発言を聞いて沸き立つ少女たち。そう言えば、「マックス」が新しい町を開放したとかいうではないか。ここは先に進むべきか――となりかけたが、
「……正気なの? 今は新規開放でごった返している筈よ?」
ただでさえサンチェスがいるのに、そんなところにノコノコ出向いて目立ちたくない――と、カナが拒否の態度を示した事で、他のメンバーもクールダウンした。
不発のまま宙ぶらりんになっているクエストの事も気になるし、取り敢えず今日一日は、この辺りで手頃なモンスターを探してみようという事になり、
「……結局、手頃なモンスは見つからなかったわね……」
「手頃どころか、モンスター自体を見かけなかったよね……」
「え? ゴブリ……」
「「「「ゴブリンは却下!!」」」」
――という感じで、この一日は終わったのであった。
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