第九十三章 運営管理室(その1)
「……何だってこんな事に……」
「この世に神はいないのか……」
「神はいるさ。……少なくとも、悪意を持った神が」
呻き声で哲学的な命題を論じているのは、お馴染み運営管理室のスタッフたちである。
彼らが凝視しているモニターの中では、全ての元凶たるシュウイが、「遊び人」ジョブを得た事をナントに話しているところであった。
「選りに選って【スキルコレクター】が『遊び人』のジョブを……」
「もうこうなったら、今後何が起きるか想像できんぞ?」
これまで散々に運営を引っ掻き廻してくれた【スキルコレクター】が、ただでさえ爆弾ジョブである『遊び人』をゲットした。
「……不確実性と予測不能性に、拍車がかかったな……」
「幸いなのは、『遊び人』がメインジョブにならなかった事だろう。『遊び人』の固有スキルである【暴発】と【ファンブル】は、『遊び人』をサブジョブにしている限り発動しない筈だ」
「……それ……信じていいのか? あの【スキルコレクター】だぞ?」
「う……それを言われると……」
ゲンナリした空気が漂うが、木檜がそれを振り払うように口を開く。
「『スキルコレクター』がサブジョブに『遊び人』を得た事でどうなるか。これについては今後監視を強めていくしか無いだろう。それよりも――」
一旦言葉を切った木檜だが、
「あのルートで『遊び人』を得た場合、本来なら強制的にメインジョブにセットされる手筈じゃなかったのか?」
――鯨飲系のスキルと馬食系の称号を一気に取得した場合、強制的に「遊び人」にジョブチェンジする――
その事自体は運営管理室の面々も承知していた。
彼らが失念していたのは、シュウイが【大食い】というスキルを持っている事と、領主館でのパーティでそれを試用するという可能性であったのだが――それはさて措き、木檜の質問への回答は、
「そうです。一種のトラップみたいなもので、強制的にジョブチェンジする仕様になってました。……まぁ、後でサブジョブに変更できるんですけど」
「今回そうならなかったのは……【スキルコレクター】のせいか?」
「恐らく。満遍無くスキルを蒐集する【スキルコレクター】にしてみれば、拾うスキルに偏りを生じさせるような転職や就職は望ましくない訳です。なので、『遊び人』へのジョブチェンジを途中で阻止したようですね。ただ、ジョブ自体の破棄まではやらずに、サブジョブ枠を設定してそこに押し込めたようです」
「何とまぁ……色々とやってくれるもんだな、【スキルコレクター】」
「正確には管理AIの判断なんでしょうが……」
「不幸中の幸い……と言うか、AIの好プレイと言うべきですかね」
――と、木檜と大楽が愚痴の言い合いをやっているところへ、
「まぁ、懸念が無い訳じゃないですけどね」
不吉な発言と共に割って入ったのは、先程から何か調べていた徳佐であった。
「徳佐……?」
「何が言いたい?」
「『遊び人』の固有スキルである【暴発】と【ファンブル】は、少し癖のあるパッシブスキルみたいです。スキルと言うより体質とか呪いみたいなもので、レベルアップしない事はご存じだと思いますが――」
「……他にも何かあるのか……?」
「『遊び人』をサブジョブに廻していれば発動は抑えられるようですけど、【暴発】と【ファンブル】それ自体を控え枠に廻す事はできません。これは【スキルコレクター】の効果とは無関係に、元からの仕様です。まぁ、その分のスキル枠は追加される仕様になってますが……要するに、スキル自体を凍結する事はできない、そういう風に最初から設計されているという事です」
凍結できない事を前提に設計されているというのは、やはり何らかの底意あっての事だと思わざるを得ない。『遊び人』という職業の事を考えると、その底意がどんなものかも、朧気ながら見当が付く。
然り気無く不吉な情報を突き付けられて、木檜と大楽の二人が黙り込む。ややあって口を開いた大楽が、
「……地味に爆弾を抱え込んだな……」
――と言うのに徳佐が答えて言うには、
「彼がか? それとも、俺たちがか?」
自嘲的な徳佐の反問に答える声は上がらなかったが――
「あのぉ~、いいですかぁ?」
――一番聞こえてほしくない声が上がった。
口を開く度に不吉な指摘をしてのけることから、周りから〝一言多い子〟と認識されている一言夕子。その彼女がまたしても声を上げたのである。
「『遊び人』って、確か幸運値に影響されませんでしたぁ~?」
――一同の血の気が劇的に引いた。




