第九十二章 トンの町 6.微睡みの欠片亭(その1)
どうにかSRO内での一日を終えたシュウイは、定宿にしている「微睡みの欠片亭」の自室に引き揚げると、疲れたように溜め息を吐いた。
リアルの中間考査を切り抜けて四日ぶりのSROである。楽しめたのは確かであるが、領主への謁見クエスト……いや、正確に言えばそこで入手した称号とその結果についてのアレコレで、何だか酷く消耗したような気がする。
「……まぁ、いいか……。それよりステータスの方をチェックしよう」
シルとマハラに食餌を与えた後で、シュウイはステータス画面を表示させる。最初に目に付く変更点は、
「職業欄が追加されてるけど……やっぱりメインジョブは『冒険者』のままかぁ……。サブジョブが『遊び人』になってるけど……最初からこうだったよね?」
パーティ会場でチラリと確認したのだが、「遊び人」は最初からサブジョブにセットされていた。ただしナントの意見では、ここの運営の性根を考えると、本来なら強制的にメインジョブにセットされた可能性も捨てきれないという。シュウイの【スキルコレクター】が強力であったため、「遊び人」の横紙破りを許さなかったのではないのかと言うのである。
「何か曲者ジョブみたいだしね、『遊び人』って」
既存のゲームでもその曲者ぶりを謳われた「遊び人」であるが、SROにおいても屈指の曲者ジョブであろうと予想されている。予想なのは――ここの運営の常道で――通り一遍の情報だけしか明らかにされていないからである。
しかし世の中には酔狂なプレイヤーもいる訳で、敢えて「遊び人」プレイに挑戦した者も何名かいた。彼らの身体を張った報告によって、SROにおける「遊び人」の特性も少しずつ判明してきたが、それは概ね以下のようなものであった。
・戦闘や生産に役立つスキルは基本的に覚えられず、ステータスの伸びも悪い。
・固有スキル【暴発】【ファンブル】を持つ。
・新たに覚えるのは、最初のうちは【遊興術 初級】というスキルだけ。
・戦闘中などに、「遊び人」プレイヤーが意図した行動がファンブルしたり、意図しないタイミングで暴発したりして、予想外の事態に追い込まれる事がある。ただし、それが必ずしも悪い結果をもたらすとは限らない。
言い換えると、何らかの分岐点となるようなタイミングで、【暴発】や【ファンブル】が仕事をするのではないかと考えられている。
・財宝やトラップなどを発見する――或いは引っかかる――確率が上がる。
・幸運値に強く影響される。
・遊び人がパーティメンバーに含まれている場合、メンバーに対して低確率で勝手にバフや戦意高揚、即死回避、状態異常などの効果が発生する。この際、遊び人は無論、誰のMPも消費されない。
・子供を始めとする住人の好感度が上がる。
・ある程度育てるとサイコロ技を憶える。攻撃の威力などがサイコロ次第で――理不尽に――変わる事がある。
・某ゲームと同じように、いずれ賢者への転職ルートがあるのではと言われているが、未確認。
斯くの如く扱いに困るジョブなのであるが、特異な効果を持つ事で一部に人気があるのも事実であり、サブジョブとして選ぶ者もそれなりに存在していた。
「あぁ……やっぱり変なスキルが追加されてるよ……」
スキル欄には【遊興術 初級】に加えて、【暴発】と【ファンブル】という不穏そうなスキルが、燦然と追加されていた。
「【暴発】と【ファンブル】についてはスキル扱いになってるけど、スキルと言うより体質とか呪いみたいなものだって、ナントさん言ってたっけ。だからレベルアップはしないんだとも」
不幸中の幸いというのだろうか。
「まぁ……『遊び人』をサブジョブにセットしている間は、【暴発】とか【ファンブル】も悪さはしない筈だって、ナントさんは言ってたけど……本当に大丈夫かな? ……僕の場合、【スキルコレクター】がどう動くか予測できないからなぁ……」
嘗て【迷子】と【掏摸】という曲者スキルに煮え湯を飲まされた――結果はそう悪いものではなかったが――事のあるシュウイとしては、猜疑と警戒を禁じ得ない。
だが、シュウイが幾ら疑おうと警戒しようと、スキルを廃棄できないシュウイとしては、今後もこのスキルと付き合っていかざるを得ないのであった。




