第九十一章 篠ノ目学園高校 3.ファミリーレストラン「ファミリア」(その2)
「魔石を与えて進化した事例は、まだ報告されていないのよ」
「まぁ、使役術が解放されたの自体、割と最近の事だからな」
「要ちゃんたちのお師匠さんは? 何も教えてくれなかったの?」
「駄目ね。自分で調べないと身に付かないってスタンスみたいで」
「あ~……そういうタイプの住人って多いよな……」
「まぁ、ゲームの性質上、そうならざるを得ないんじゃない?」
「で、話を戻すけどさぁ、他にトリガーの候補って無いの?」
単刀直入な蒐一の問いに、う~んと首を傾げる三人。
「……やっぱし魔石が第一候補じゃないのか?」
「けどさぁ匠、魔石ならシルが能く食べてるけど、何の変化も無いぞ?」
――という実体験に基づいて、魔石説に異議を投じる蒐一。
「いや……幻獣はまた違うんじゃないのか?」
「けどさ匠、お前が言うように魔石がトリガーなら、それをしょっちゅう食べさせてる僕が、何の称号も貰えなかったのはどうしてだよ?」
思いがけない方面からの反論を受けて戸惑った匠であったが、掩護の手は要から差し伸べられた。
「いえ……シル君が進化しなかったのが、称号を貰えなかった理由じゃないかしら」
「あ……そういう可能性もあるのか……」
「シルだとそこらの魔石くらいじゃ、進化の足しにはならなかった……って事?」
「いや蒐、抑幻獣が進化するかどうか判らんだろ?」
「まぁ、シル君の好感度は上がってると思うから、無駄ではなかった筈よ?」
「けど……果実水とかの方が喜ぶんだけどなぁ……」
魔石の扱いが微妙になりかけたところで、
「そぅそぅ、魔石はちゃんと進化のトリガーになるみたいよ? サンチェスの話だと」
――しれっとした表情で爆弾を投げ込む要であった。
「……何だよそれ!? 判ってたんなら教えろよ!」
大むくれの匠が非難の声を上げるが、
「ごめんなさいね、言い出すきっかけが掴めなかったものだから。……けど、掲示板には流した筈だけど?」
澄ました顔で斬り返す要に、
「んなモン、見てる暇なんかあったかよ!」
――と、このところ試験勉強でログイン禁止を申し渡されていた匠が、喚き声で応じている。
事情を知っていたらしき茜が視線をあらぬ方に逸らしているのを見て、蒐一は軽く溜め息を吐くと、
「……それで、サンチェス船長は何て言ってるのさ?」
匠の憤懣も解らないではないが、今は情報の確認が先だ。
「えぇ。魔力を多く含んだものを食べたり、濃密な魔力の澱みに身を曝したりして、急激に魔力を蓄えた個体が進化するみたいね――サンチェスの話だと。魔石も進化を引き起こすらしいんだけど、これについてはサンチェスも又聞きで能く知らないみたいなのよね」
「へぇ~……やっぱりあるんだ」
「……で、掲示板に流したのかよ?」
「モンスターの進化について、事情通の住人から証言が得られた――って事だけね。原因については、確たる証拠が得られた訳じゃないから見送ったわ。蒐君の事例についても同じく流してないから、情報の取り扱いには注意した方が良いわよ?」
どうやら蒐一の情報については、デリケートな部分が多い上に、特殊過ぎてあまり役に立たないと判断したらしく、伏せておいてくれたようだ。幼馴染みの配慮をありがたく思う蒐一であったが、
「それで蒐君、手許に魔石って余ってるかしら?」
柔やかに問いかける要を見て、感謝の念が少し割引された蒐一なのであった。




