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第十一章 イーファンの宿場へ 2.イーファンの宿場

 途中二度ほど馬を止めてそれぞれ二時間ほど休憩したが、昼過ぎにはイーファンの宿場についた。今日はここで一泊する事になる。商人の小父さん小母さんはここが目的地なのでお別れだ。二人とも大荷物を軽々と担いで歩み去って行った。


「シュウイ君はどこに泊まるの?」

「決めてない。冒険者ギルドへ行って聞こうかと思っているんだけど?」

「あ~……それじゃ、私たちも一緒にいい?」

「うん、いいよ」


 可愛い女の子を二人も連れて冒険者ギルドに行くと、絡まれるのがテンプレなんだよなぁ……と考えていたら、別のテンプレに巻き込まれた。


「ねぇねぇ、彼女。良かったら俺たちのパーティに入らないか?」


 チャラい感じの男がそう言い寄って来た……僕に(・・)


「僕・は・男・だ」

「嘘っっ! そんなに可愛いのにっ!」


 嘘? 嘘って言った? 可愛い? 誰が? 誰が言った? この口か? ……



・・・・・・・・



「済みませんが、ギルド内での暴力沙汰はご遠慮下さい」


 肩に手を置かれて……というか、しっかりと止められて我に返った。ふと見ると、僕の左手はチャラ男の喉笛を握り潰すところで、右手の中立ち一本拳は(じん)(ちゅう)の急所に向けて構えられていた。職員のお姉さんはその右の二の腕を押さえている。チャラ男は白目を()いていて、その口からひゅーひゅーという音が漏れている。何だ、まだ息はあるみたいだ。


「あぁ、済みません。つい我を忘れたみたいで」

「いえ……正気に戻って戴けて助かりました」


 正気(・・)に……って、僕、そんなにヤバかったの?


「それで……ギルドには何の御用でしょう? あと、できればその手を放して戴けると……」


 あ、チャラ男を掴んだままだった……。


「あ、いえ。今夜泊まる宿を紹介してもらえないかと思いまして……できたら変な男に絡まれないような宿を……」


 職員のお姉さんはちらりとチャラ男――何か痙攣してるけど――を見遣(みや)ると、軽い溜息を()いて(うなず)いた。


「解りました。本来ギルドが宿の斡旋を行なう事は好ましくないのですが、(よん)(どころ)ない事情があるのは明らかですので、特別にご紹介致しましょう」



・・・・・・・・



 多少納得のいかない台詞(せりふ)があったけど、職員のお姉さんに紹介して貰った宿は「止まり木亭」といって、本来身元の不確かな者は泊めない宿らしい。僕らは紹介状を貰ったけど。


 宿の女将さんに紹介状を渡すと、一通り目を通した後で聞いてきた。


「三人部屋かい?」

「いえ。()は一人部屋で、この二人は……」

「「二人部屋で」お願いします」

「あいよ。うちは朝夕の食事付きで一部屋一泊五百G、二人部屋は一人当たり四百五十Gだけど、いいかい?」


 二食付きで安全保障があるのなら安い値段だろう。僕も二人もOKした。



「……でも意外~。シュウイ君ってもっと大人しいというか……物静かな印象があったんだけど……」

「……小学校に上がる前から変質者に付け回されたり、(さら)われかけたりしてごらんよ……脊髄反射で反撃が刷り込まれるから……」

「あ……うん……なんか、ごめん」



・・・・・・・・



 宿を取った後もまだ陽は高かったので、二人は外へ買い物だか見物だかに出かけたみたいだけど、僕は疲れたと言って部屋に引き籠もらせてもらった。実際、あのチャラ男のせいで疲れたしね。


 部屋に鍵をかけて一人になると、懐からシルを取り出す。ずっと懐の中で大人しくしてくれてたしね。ナンの町を出る前に買いだめしておいた食糧と水をアイテムバッグから出して、シルに食べさせる。特に食事を与えなくても契約者の精気を吸って成長すると書いてあったけど、仲間なんだから一緒に食事をするのが大事だと思うんだ。


「シル、出してやれなくてご免な。さ、食べよう」


 謝るとシルは気にするなと言うように小さな首を振って、それから(おもむろ)に果物――ちゃんとカットしてあるよ? 当然じゃん――の方へ近寄って、上品に口を付ける。カメって、こんなに上品に食べたっけ。僕も同じものを一切れ食べる。その後は、シルが口を付けたものを僕も一切れ食べる事を繰り返した。満足したように食べ終えると、シルは大きく伸びをして、その後は部屋の中をただ歩き回った。ずっと懐の中にいたから運動したいんだろうと思って、好きなようにさせておく。その間僕は、今日二人から聞き出した内容をメモに整理したり、掲示板を眺めたりして時間を潰す。


 そのうちに夕食の時間になったので、シルにどうするか尋ねてみたんだけど、そのまま歩いていたいようだから部屋に残して食事に行った。大急ぎで食事を済ませて部屋に戻ると、シルは片隅で眠っていた。


 メモの整理などをしていると、タクマからチャットが届いた。


『シュウ、今いいか?』

『いいけど、何?』

『あぁ、お前から聞いたナンの封鎖街道の件な、パーティメンバーに話してみたんだが、結局手を出さない事になったわ。ワイルドフラワーも同じ結論になったそうだから、とりあえず報せとこうと思って』

『あ~、やっぱりかぁ~。……偵察も無し?』

『あぁ。で、この情報を拡散するかどうか話し合ったんだけどな、掲示板に載せるとネタで突っ込んで行く馬鹿が必ず出るだろうって事で、まともな連中にだけ話す事にしたわ。センたちも同じらしい』

『うん、解った。一報ありがとう』

『それだけだ。じゃな』


 タクマなら偵察くらい行くかと思ったけど……安全策を採ったみたいだね。下手に刺激してレイドモンスターがナンの町に暴れ込んだりされたら壊滅決定だし、妥当な判断かな。


 入手した情報や今後の予定などのメモを整理した後、灯りを消してログアウトする。


 お休みなさい。

生物学で言う脊髄反射と刷り込みは全く別の仕組みです。シュウイは比喩的な表現として使っていますので、お間違えの無きように。

次回は金曜日に更新の予定です。

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