第八十八章 運営管理室 3.シュウイ(その1)
「ついに自分の手で種を蒔いたか」
「これでクエストが進行しますね」
どこか諦観を漂わせた表情でモニターを眺めているのは、お馴染み運営管理室の面々である。
モニターの画面に映っているのはシュウイ。冒険者ギルドの中庭に、ズートの種子を埋めたところであった。
「また……複合属性の魔石なんてものを、惜しげも無く……」
「確かに、ズートの苗の育成には、適宜魔力を与えてやる必要があるが……」
「アレはどうなるんだ?」
「想定されている行動じゃありません。AIがどう判断するかでしょう」
どうもこの少年は、やる事なす事こちらの想定を裏切ってくれる。ズートの苗が予想外の範囲にまで拡散したのも、元を辿ればこの少年のせいだ。幸いにしてズートの種子を受け取った相手は、瑞葉を除けばトリガースキルを持たないプレイヤーと住人だ。クエストを引き当てたりはしないだろうが、それでも予想外の範囲にズートの苗が拡散したのは事実である。
「幸か不幸かこういう事態は予想していなかったからな、こういう形でのクエは仕込んでいない。そっち方面への影響は無いだろう」
「しかし、今まで散々やらかしてくれた『スキルコレクター』の事だ。今回も想定外の展開はあると、そう覚悟しておいた方が無難だろう」
「問題は、どういう形のトラブルが発生するか……」
既にトラブル発生は、既定の事として諦めているのが哀れである。
「……『スキルコレクター』はドリアの種子も持っていたりしないか?」
「いや、それもだが……使役術師が種を蒔いて育てた場合、どうなるんだ? テイムとかが発生するのか?」
予想外の問題を持ち出されて、思わず言い出しっぺを振り返る一同。
余計なフラグを立てるんじゃない。「言霊」というのを知らんのか。
「……少なくとも、そういうケースは想定されていなかった筈だ。これも管理AIの判断次第だろう」
「このところ管理AIの成長が著しいよなぁ……。いや、CANTECの社員としては喜ぶべきなんだろうが」
「ゲームの展開第一に考えてくれるからなぁ……こっちの負担ってやつも、少しは考えてほしいもんだ」
同感々々とぼやきが広まったところで、スタッフの一人が怖ず怖ずと口を開く。
「なぁ……ちょっといいか?」
「……駄目だと言う訳にもいかんだろう。……本音としてはそう言いたいんだがな」
「どうせ『スキルコレクター』の事だよな?」
「まぁ、そうなんだが……使役術師で思い出したんだが、付喪神はどうなんだ?」
「あ?」
「付喪神……テイムか何かが通用する可能性か……?」
「あぁ、俺は付喪神の仕様については能く知らんからな。ただ、ありそうな話に思えないか?」
考えた事も無かったが、ありそうに思えるところが腹立たしい。
「……いや待て。抑SROの『付喪神』というのは、プレイヤーの装備品が意思を持つようになったものだろう? 最初から従魔的なポジションが期待されているんじゃなかったのか?」
「それはそうなんだが……そこに使役職が絡むとどうなるんだ?」
「好感度や忠誠度が跳ね上がるとかか?」
「……或いは、付喪神の能力とか……」
不吉な予言を聞かされて引き攣るスタッフたち。
「……付喪神を設計した開発の連中に確かめろ。場合によっては、こっちでも対抗策を用意する必要がある」
疲れたような木檜の指示が飛んだ。




