第八十八章 運営管理室 1.瑞葉(その1)
この日も運営管理室には怒号と悲鳴が渦巻いていた。これ自体は別に珍しい事ではない。……珍しくなくなっているという事が不憫ではあるが。
珍しいのはその原因で――モニターに映っているのがシュウイではない事であろう。
「とんだところにダークホースがいたもんだな……」
「この娘ってアレだろ? トンの町で引き籠もってた……」
――モニターに映っているのは瑞葉であった。
「職業解放クエスト」なるものを二件クリアーした――クエストクリアーとは言っても、蒔いた種が発芽しただけだが――のを皮切りに、運営管理室でさえ目を剥くような事態が立て続けに起こっているのである。予想外の伏兵に痛撃を喰らった形の運営管理室に怒号と悲鳴が湧き起こるのも、蓋し当然であった。
「全く……トンの町に居座ってるやつらは、どうしてこう面倒ばかり起こすんだ……」
言いがかりのような気もするが、シュウイを筆頭にして、ナント、テムジンと運営の頭を抱えさせた人材が揃っているのは事実である。皮肉な事に、ゲーム攻略の最前線では然したる問題は寧ろ起こらず、運営管理室の頭痛の種は、ここトンの町に集中していると言ってよい。……最近サンチェスという例外はあったが、アレはプレイヤーではなくNPCであり、本来は運営管理室の管掌ではない……筈だ。
「泣き言はいい! 何が起きているのか調べるのが先だ! 『職業解放クエスト』が同時に二件とはどういう事だ!?」
「今やってます!」
・・・・・・・・
怒号の応酬が一段落したところで明らかになったのは、読者諸賢は既にご存じであるAIの陰謀……もとい、判断であった。
「……転職するには種族レベルが5に上がる必要があり、それにはモンスターの討伐が――正確には〝討伐に参加する事〟が――必要になる。現在の彼女は討伐に必要な――或いは、討伐への参加に必要な――スキルを何一つ持っていない上に、スキル枠の空きも無い。必要なスキルを取るためにスキル枠の空きが必要――か……」
「説得力のある主張ですね。一応は……」
管理AIの主張した理由には筋が通っており、運営管理室の面々もその点を認めるについては吝かでなかった。ただ……
「しかし……運営サイドがそこまで個人の事情に関わっていいものなのか?」
――という疑問と懸念を払拭できなかっただけである。
しかし、これについてもAIは一応の回答を用意していた。
「レア職業の解放という問題が関わってくるからな。ここで彼女が転職を諦めた場合、職業解放クエスト、延いてはレア職の存在自体が不要ではないかとの空気が醸成されるだろう。開発の連中が臍を曲げて、その責任をこっちに押し付けてくるかもしれんぞ」
「願い下げですね……」
斯くの如くほぼ済し崩しに、AIの処置を追認する流れとなったのであった。
「今更言うのも何だが、こういう妙なケースは、キャラクリの段階から助言をしておけば回避できたんじゃないのか?」
「キャラクリに修正が入ってからは、ここまで変なキャラを作ってくるプレイヤーはいなかったからなぁ……」




