第十章 篠ノ目学園高校(火曜日) 2.放課後
図書委員会の用事があるという要ちゃんを除いて、僕たち三人は教室に居残って話し込んでいた。
「う~ん、やっぱり蒐君は、表向き従魔術師か召喚術師でやっていくしかないんじゃない?」
「そうなのかな……」
「微妙スキル研究家って看板でやっていくんなら、別に止めはしないけどな」
「うっ……」
「それから、変に追求されたくないんなら、あのチビを見つけた時の説明……っていうか、表向きのカバーストーリーを考えておけよ」
「カバーストーリー?」
「別に難しく考えなくてもいいんじゃない? あるワンタイムクエストで手に入れたけど、そのクエストの事は言えない、でいいと思う」
「まぁ……妥当かな?」
「幻獣って事さえ隠しておけば大丈夫よ」
「ううぅ~……面倒臭いよぅ……」
「ついでに言っておくと、しばらくの間はあの子を出しちゃだめだよ? まだ従魔を獲得したプレイヤーは少ない筈だし、もう少し経ってからじゃないと怪しまれるから」
「うぅ~……(泣)」
僕が力無く机に突っ伏していると、匠の声が聞こえてきた。
「けど……アドバイスするにしても、門外漢の俺たちじゃ限界があるな」
「そうだね……蒐君は従魔術師か召喚術師の知り合いっていないの?」
「始めたばかりなのに無茶言わないでよ……茜ちゃんたちのほうこそ、魔法職繋がりで伝手があるんじゃないの?」
「魔法職って言っても、従魔術師と召喚術師は特殊だから……」
「そうなの?」
「あぁ。このゲーム、従魔もパーティの人数にカウントされるから、従魔術師や召喚術師はパーティを組みにくいんだ」
「組むとしても、同じ職業同士で組むのが普通だね」
「……ぼっち職?」
「そういうんじゃないから」
「けど、まぁ、従魔術師もしくは召喚術師用の掲示板を覗くくらいしておけよ?」
「あの子のために頑張ろうね、蒐君♪」
茜ちゃんの背後にコウモリの翼と黒い尻尾が見えた気がする……。
・・・・・・・・
何か疲れたのでもう帰るといったら、茜ちゃんが疲れた頭には糖分だって言い出して、「幕戸」――正式名称を「帳と扉」という喫茶店――に寄っていく事になった。茜ちゃんはここのパフェがお気に入りだから、何かと理由を付けては寄りたがるんだよね。
「う~ん、美味♪ 早くSROでも甘味が食べられないかなぁ……」
「あれ? 無いの?」
「あぁ、【調理】持ちのプレイヤーが頑張ってるけど、どうやらデザートは別のスキルらしくてな」
「あ~……蒐君、【パティスリー】っていうスキルとか持ってないの?」
「そんなスキル、あるの?」
「判んない。あればいいなって思っただけ」
「でも、そのスキルなら捨てる人はいないんじゃない? 僕が拾えるのは、基本的に誰かが捨てたレアスキルだから……殺して奪う訳にもいかないし?」
「……モンスターからも奪えるんじゃないの?」
「お菓子を作るモンスターっているの?」
「いるんならテイムして欲しいかな~」
「いや……SROにいるかどうかは判らんが、確かシルキーって家事好きの妖精がいなかったか?」
「蒐君! その子をテイムすれば左団扇だよ!?」
「やだよ。引き籠もり決定じゃん」
「蒐は戦闘力の高い従魔を得る方が先だろ?」
「でも匠君? トンの町の周辺だと、そんなに強いモンスターとは出会わないでしょ?」
「強い従魔が得られないからトンの町を出られない、トンの町を出られないから強い従魔が得られない。見事に完結したな」
「うぅぅ~……(泣)」
「とりあえずはシルちゃんのレベリングだね。シルちゃんが強くなってくれれば、蒐君もトンの町から出られる訳だから」
茜ちゃんの言うとおりにするしかないかぁ……。