第十章 篠ノ目学園高校(火曜日) 1.昼休み
翌日の昼休み、僕たち――いつもの三人に要ちゃんを加えた四人――は、恒例となった屋上での昼食会を開いていた。
「今日は要ちゃんも参加なんだね」
「うん。当番が終わったから、しばらくは大丈夫かな」
「あ~、当番だったんだね」
「でも、放課後は当分一緒できないみたい」
「図書委員も大変だね。で、何かめぼしい本は購入できたの?」
「茜ちゃん、一年生の分際で、そんな事できる訳ないでしょ? しばらくは大人しくしていなくちゃ。急いては事をし損じるのよ?」
うん、要ちゃんは相変わらずだね……。
「私の事より蒐君でしょ。あの子の事、話してもらうわよ?」
台詞だけ聞いてると、なにか浮気を問い詰められているみたいだね。うん、まぁ違うけど……。
「昨日言ったとおりだよ? 偵察の帰りに貰ったんだよ」
「どこで? 誰から? どういう具合に!? ちゃんと省略しないで話してよ!」
「え~?」
要ちゃんに怒られて、シルを貰うまでの事を、最初に【虫の知らせ】を感じた時から逐一話す羽目になった。話を聞いた要ちゃんの感想がコレ。
「何というか……蒐君って、思った以上に変なスキル使ってるのね……」
「また、結構使いこなしてるのが何だかな~」
「何でそこまで言われなきゃなんないのさ。僕、不運にもめげず頑張ってるのに」
「スキルがどれもこれも斜めにチートっぽいだけに、悲壮感が無いのがな……」
「チートって……うん、まぁ、意外と使えてるけど……でも、結局は不意を衝くとかデバフとかで、直接攻撃には使えないんだよ?」
「あ~……蒐君にとっての問題点はそこか~」
「でも、蒐君ならモンスターくらいどうにかできるんじゃない?」
「無理だって。人間以外の生き物に、そうそう体術なんか通用する訳ないじゃん」
「う~ん、そうなの?」
茜ちゃんは疑わしげに匠の方視線を向けるけど……
「まぁ、確かにやり辛いな」
「野良犬に噛まれた匠君が言うと、重みがあるよね~」
これは要ちゃん。
「おう、経験者は語るってやつだ」
「蒐君、一応武器は持ってるのよね?」
「うん。クロスボウに杖、あとは短剣、手裏剣、バグ・ナクに吹き矢」
「どんなラインナップよ……特に後半三つ」
「前にも言ったけど、PK殺して拾っただけだよ?」
「あぁ……そんな話もあったわね……」
「けど……こうしてみると、モンスターを相手取るには打撃力と火力に欠けるな」
祖父ちゃん直伝の歌枕流にも、さすがにドラゴン相手の闘い方なんかは伝えられてないからね。大体、あんな怪獣サイズの生き物、武術でどうこうできる訳無いじゃん。僕は「スキルコレクター」のせいで、対モンスター用の武器スキルを取得するのは絶望的だし……。
「あ~……それはあるね」
「だから、僕にはモンスターの相手なんか無理なんだってば」
そう言ったんだけど、ここで匠が余計な事を言いだした。
「あの従魔はどうなんだ? なりはチビでも幻獣の子供なんだろ?」
「あ、そうだよ蒐君。従魔術師なんだから、従魔を使役して闘えばいいんだよ」
「……言ってなかったっけ? シルは防御特化型だよ?」
「……攻撃スキル持ってないのに、何で防御特化にするんだよ……お前は」
「だって、防御スキルも持ってないもん。そもそもろくなスキルが取れないのに、モンスターに突っ込んで行くなんてあり得ないよ」
「そう言われれば、そうね……」
「けどな、蒐。お前この先もずっとトンの町に引き籠もってくつもりか?」
「う……それを言われると」
折角のゲームなんだから、僕だって冒険したいのは山々だ。けどなぁ……。
「攻撃手段の獲得は必須だぞ?」
「やっぱり【従魔術(仮免許)】か【召喚術(仮免許)】のアーツを使うしかないんじゃない?」
「……いや、待て。確か【従魔術(仮免許)】も【召喚術(仮免許)】も最初の従魔を入手した後で獲得する筈だぞ? あのチビはどっちの扱いなんだ?」
「蒐君、後でそれぞれのアーツを開いて確認してね。どっちかに従魔登録してある筈だから」
「チビが登録されてない方のアーツは非表示にしとけ。不自然だからな」
「待って。……逆に、幻獣が未登録の方のアーツで、攻撃能力のある従魔を獲得するっていうのもありじゃない?」
「あ~……それもありだね」
「でも、そうすると仮免許とはいえ【従魔術】と【召喚術】を両方持ってるのが判っちゃうよ? それともシルを日陰者にするの?」
「う……それがあったわね」
「じゃあ、同じアーツで……って、従魔を二体も持ってるのは不自然か」
「それにさ、従魔術師も召喚術師も魔法職でしょ? 魔法を全く使えない僕がプレイしたらおかしくない?」
「目立つのは目立つだろうな……」
「う~ん。でも蒐君、あの子をずっと隠しておく訳にもいかないでしょ?」
「どっかのタイミングでカミングアウトしないと拙いだろうな」
僕が口を出す暇もなく、今後の方針が決められてゆく。
「うわ~……何て面倒臭いゲーム」
「いや、面倒臭いのはお前の立場の方だからな?」
「何であれ、あの子を表に出す以上、レベリングは必要よね」
「レベリング?」
「ええ。従魔もプレイヤーと一緒で、強敵と闘う事でレベルアップする筈よ、確か」
「あ~……紙装甲なのに、とうとうモンスターデビューかぁ……」
「ま、紙装甲を守ってくれる幻獣なんだから、レベルアップは必須だろ」
「トンの町の周辺なら、そう強いモンスターは出ない筈だよ。頑張ってね♪」
茜ちゃんの無情な笑顔に撃沈されてると予鈴が鳴ったので、それをきっかけに僕たちは教室に戻った。
この続きは金曜日の更新で。




