第八十三章 トンの町 16.テムジン工房
シュウイから付喪神の情報を報されたテムジンは驚愕していた。尤も、リアルでの職業がらなのか、その動揺を表に出すような事は無かったが。
それというのもテムジンには、ひょっとしたらと思い当たる節があったのである。
(……廃物となった剣をリサイクルして打ち直した場合、少しだけ高品質になる事があると聞いたが……)
以前にも触れたと思うが、SRO内で鍛冶作業の原料となる金属には二通りある。一つは鉱石を掘り出して精錬した、この業界では〝ウブな〟あるいは〝ウブ出しの〟と形容されるものである。そしてもう一つが……
(……傷んでいてそのままでは使いようがない廃剣などを、鋳潰して再生するというやつだが……)
この方法で再生した武器などは、〝ウブな〟金属から造ったものに較べて幾分か効果が高い事が――より正確に言えば、効果の高い武器の多くがリサイクル品である事が――知られていた。
そしてそれを裏付けるように、SROにおいては屑鉄からリサイクルする方が、より高度な技術とされていたのである。
しかもこちらのリサイクル技術は住人の専売特許となっており、プレイヤーがこの技術を身に着けるに当たっては、住人の鍛冶師から教え――弟子入りクエスト――を受ける必要がある。テムジンもその教えを受けて技術を修得した一人であったが……ここの運営の嫌らしい事には……
(……身に着いたのはいいんだが……どういう仕組みでそうなるのかまでは、説明してくれなかったからな……)
一応、検証班の働きによって、どうもSROの【鍛冶】スキルでは、鍛造の際に魔力か何かを込める仕様になっているらしく、リサイクル時にそれを抜く必要があるらしい事が明らかにされている。当然ながら、ここの運営はこの事についても一言だって触れていない。
(だが……もしも付喪神の話が事実だとしたら……)
もう一つ別の説明が可能になる。
――即ち、廃物となるまで使い込まれた武器の「経験値」を、打ち直す武器に持ち越せるのではないか?
(……だとしたら……これは大事だぞ?)
もしも「経験値」の持ち越しが――その一部であっても――可能なのだとしたら、「前世」――おかしな言い方だが、他に上手い表現が思い付かない――の「経験」を活かせる武器に打ち直してやらないと、折角の経験値を無駄にするのではないか?
言い換えると、前に鉞であった武器を鋳つぶして槍に変えても、鉞としての経験値を活かせないのではないか?
……いや……この仮説を更に進めるのなら……
(……同じようなタイプの戦士が扱わないと、その真価を発揮できないんじゃないのか……?)
例えば同じ剣士であっても、突きを主体にするのか、上段からの真っ向両断を得意にするのか、動脈を斬り裂いて失血死を狙うのか……それぞれが得意とする戦法は多岐に亘るだろう。
ならば……それらの経験を深めた武器を与える事が、各自の闘い方を活かせるのではなかろうか。更に言うなら、打ち直した武器は元の持ち主に渡してこそ、その真価を発揮できるのではないか?
(……いや……VRゲームとして考えた場合、そこまでのパラメーターを扱い切れるものか……?)
メモリのリソース管理が大変な事になりそうな気がする。
とは言え……
(……剣は剣に、槍は槍に打ち直せ――って、βテストの時に地元の鍛冶師に言われたからなぁ……)
それを考えると、少なくとも経験値の持ち越しに関しては、そう的外れな推測ではないような気がする。
(……できるだけ急いで、しかしこっそりと、住人の鍛冶師に確認するしかないな……)




