第八十三章 トンの町 6.指導係の継続~あるいは、AIの要請~
引き攣った表情で硬直していた二人――と、ナント――をどうにか宥め、いざナントの店に入らんとしたシュウイであったのだが……
「……やっぱりシュウイ君か。目を覆いたくなるような解体ショーをやってる――って通報があったから、もしかしたらと思っていたんだけど……」
「解体ショーって……いえ、確かに『異邦人』どうしで少し……肉体言語によるコミュニケーションがありましたけど……」
「君たちの国では、アレをコミュニケーションと呼んでいるのかい?」
職員が目線で訊ねてくるが、モックとエンジュ――ついでにナント――にしてみれば、ふるふると首を左右に振るしか無い。あれが自分たちの常態であると思われたら、色々と面倒な事になりそうではないか。
身内の裏切り――註.シュウイ視点――で特別枠認定されたシュウイは些かお冠であったが、
「――とにかく、後始末のための調書を取らないといけないから、ギルドまで付き合ってもらうよ」
――という要請には温和しく従っていた。
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「え? 正規の指導員の人、遅れそうなんですか?」
「あぁ。何でも、他の町からも要請があったとかでね。仮にとは言え、現在シュウイ君という指導係が付いているここは、後廻しにされるようだ」
「「「はぁ……」」」
正直言って承服しづらい話ではあるが、納得せざるを得ないような話でもあった。第二陣のプレイヤーが大挙して参入したために、どこのギルドも指導員が足りていないのは事実である。況して、吟遊詩人に宝石職人という新規設定の、しかも不人気職では仕方のない事……と、納得しかけた一同であったが……実際の事情は、彼らの想像とは些かずれたところにあった。
第二陣の新人二人が、ゲーム屈指の問題児――と言うか、特異点――たるシュウイの指導を受けているという事実は、運営管理室スタッフの頭痛の種であった。
ただでさえ色々と問題を起こしている――ただし、本人に悪気は無い――シュウイの薫陶を受けた新人プレイヤー……。もしも彼らまでがシュウイの後継者として育つような事になったら……という悪夢の未来を回避すべく、管理室の面々は彼らの離間を図る事にした。指導員が足りないためにシュウイがピンチヒッターを演じているのが現状なのだから、要は指導員を手配してやればいい。
シュウイが二人と離れてイーファンに行くのを好機と捉えた管理室、この隙に離間の策を講じようとしたのだが……彼らの思惑を察知して、なおかつそれを良しとしない者がいた。誰あろう、このゲームの管理AIである。
AIの判断としては――新人の成長ぶりが目覚ましい以上、このままシュウイに指導させるのがベストである。恣意的な判断でそれに容喙する管理室の暗躍は、ゲームの運営上好ましからざるものと判断した。
その結果……モックとエンジュの指導者用に用意していたNPCが、AIの指図で他の新人プレイヤー――僅かではあるが吟遊詩人も宝石職人もいるにはいる――の指導に廻されてしまうという事態が生起したのである。
予想外の事態に管理室の面々は呆然としたが……モックとエンジュには一応シュウイが指導に付いているのだから、指導者のいないプレイヤーに廻すべき――という理由は、至極尤もなものなので反駁しづらい。
こういった裏事情――運営管理室とAIの暗闘――の結果、ギルドの職員が言うような事態と相成っていたのである。
「一応、吟遊詩人の指導役からは、助言のようなものを貰ってるんだけどね。……あった、これだよ。技芸神の聖地を訪れて歌を奉納しろってさ」
「へぇ……」
――そう言って職員から紙切れを受け取ったシュウイの眼前に、音も無く半透明のウィンドウが現れる。
《派生クエスト「技芸神への奉納」が発生しました。クエストを受けますか? なお、このクエストに期限はありません。 Y/N》
駄目押しとばかりに管理AIは、シュウイに対してモックを「技芸神の聖地」に案内するというクエストまで提示する。
シュウイがYを――モックの都合を確かめるのも忘れて――押したのも、無理からぬ話であったが、これによって――少なくともクエスト継続中は――モックをシュウイから引き離す事ができなくなった。いずれエンジュに関しても、何らかの手を講じるつもりである。
斯くして、プレイヤーそっちのけで行なわれた暗闘は、管理AIの鮮やかな勝利によって幕を閉じたのであった。




