第八十二章 篠ノ目学園高校 5.放課後(その3)
にこやかに問い詰められた形の蒐一であったが、要の質問はある意味で渡りに船であった。ノンレアスキルを幾つか拾ったのだが、そのうち【化石】というものの正体が今一つ不明なのだ。この手の事は先達に訊くに限る。
「あ? 【鑑定】以外にもノンレアスキルを拾ったのかよ」
「うん。けど、説明文だけじゃ内容が能く判らなくてさぁ」
「あー、このゲームはそうだよね」
「それで? 何を拾ったのかしら?」
問われるままに拾ったスキルの名前を挙げていく蒐一であったが、
「また……随分色々と拾ったもんだな……」
「多分、ナンの町とイーファンの宿場にいた新人さんたちが捨てたのも多いと思うんだ」
「名前からして妙なスキルが多そうだしなぁ……何だよ、【優柔不断】って……」
「〝優柔不断になる〟スキルらしいよ」
――と、ある意味で平穏な会話を転がしている男子二人であったが、彼らを――正確には蒐一を――見る女子二人の目には厳しいものがあった。
「……【着痩せ】って……」
「蒐君、ずるい!」
「いや……ずるいって言われても……」
説明には〝着痩せして見える〟とだけあったが、だとしたら他者に見られる事を前提としたスキルである。シルとマハラがこの手の事に気付くかどうかは定かでないため、ソロで活動しているシュウイには効果を確かめようが無いのであった。
「あぁ……新人に知られるのは拙いか……」
「うん。ログイン後にでも使ってみて、宿の人かギルドの職員の人の反応を見るくらいだけど……見た目が変わり過ぎるのも拙いんだよね」
「そん時ゃ自分でも気付くんじゃねぇのか?」
「うん。だけど、直ぐに解除できるのかどうかが判らないし」
「あ~……ログアウトするまでそのまま――ってスキルもあるからなぁ」
「でもでも蒐君、一端ログアウトして、直ぐにまたログインすれば大丈夫じゃない?」
「そうなの?」
要と匠にも確認するが、βテスター二人の答えは――
「スキルの特性とかもあるだろうから断言はできんけど……十中八九大丈夫だな」
「私としては、是非効果を確認してほしいわね」
「あたしもあたしも!」
あくまで物腰柔らかに、しかし獲物をロックオンしたような視線を外さない要と茜に、蒐一もイエスと答えるしか無い。
(「怖ぇな……女ってやつは……」)
「「何か言った? 匠君」」
「いやっ! 何でも!」
これで禊ぎは終わったかと、蒐一が胸を撫で下ろしかけたのだが……
「【男の手料理】かぁ……」
――まだまだ追及と弾劾は終わらないようだ。
「……何で捨てられたのかな?」
自分たちなら決して捨てたりはしないのに――そういう想いを込めて切実そうな口調で呟く茜であったが、捨てられた理由など決まっている。
「スキル枠を塞ぐからだろ」
「――でもっ!」
「……多分、SROの食事事情を知らない新人が捨てたんじゃないかしら」
商用版のSROでは味覚が向上しているにも拘わらず、携帯食料の不味さは改善されていない。なまじ街中での食事が美味いだけに、虐待とも言える携帯食料の不味さは、第一陣プレイヤーたちの心を折るに充分過ぎた。【料理】スキルを取得する者が増え、【アイテムボックス】なる収納スキルの持ち主などは引く手数多の現状であった。
「でもさぁ……【料理】じゃなくて【男の手料理】だよ? 何か一癖ありげな気がしない?」
「あ~それは……」
「……するな。確かに」
「使ってみなかったの?」
「いや? 確認したのって宿に着いてからだよ? 室内で料理なんてできないじゃん?」
「あ、そっかー」
「いや待て蒐、ズートの葉を湯がいたって言わなかったか?」
「え? 葉っぱを湯がくだけなのに、態々スキルなんか使ってどうすんのさ? 違いなんて出そうにないじゃん?」
「いや、使役獣の好感度が上がるかもしんねぇだろ?」
「あー……そこまで考えなかったけど……上がるかな? 好感度」
「判らんが……態々スキルまで使って用意してくれるってんだからな。好感度が上がる可能性はあると思うぞ」
「そっか……試してみよ。ありがとな、匠」
もうこれで相談しただけの価値はあった様な気がするが、蒐一が本来相談したかったのは別の事である。




