第八十二章 篠ノ目学園高校 1.昼休み(その1)
「ん? あの後何かあったのか?」
「買い物済まして帰るっだけて言ってたじゃん?」
昼休みの屋上で弁当を使いながら、訝しげな声を上げたのは匠と蒐一の二人であった。
確かに昨日のSROは盛り沢山であったが、自分たちが帰った後は大してやるような事は無いような口ぶりであったが?
「……そう思ってたんだけどね……」
「色々あったの……」
「目立ちまくった以外にか?」
「「………………」」
匠の質疑に沈黙と渋い顔で答える茜と要。
匠の言葉どおり、食糧の買い出しがてら匠と蒐一を見送らんものとイーファンの宿場に足を運んだ「ワイルドフラワー」は、町中のプレイヤーの注目を浴びる羽目になったのであった。
「まぁ……ヨーロッパ中世風の煌びやかな衣裳を纏ったスケルトンに先導されてちゃなぁ……」
「無理もないよね……」
――そう。満艦飾とまではいかないにせよゴージャスな盛装を身に着けた「サンチェス船長」が、トップパーティの一角と見做されている「ワイルドフラワー」に随行していれば、これは注目を浴びない方が異常である。おまけに……
「匠も結構見られてたじゃん?」
「……お前がそれを言うか? 蒐」
これに同行しているのが、やはりトップパーティの一つ「マックス」の剣士タクマであり、更にそれに――一部で密かに有名な――シュウイが加わっているとなれば、プレイヤーたちの好奇心が上限を突破したのも無理からぬ事であったろう。マナーを無視して突撃するプレイヤーがいなかったのが不思議なくらいであった。
「やっぱり、匠とか要ちゃんが睨みを利かせていたのが大きいよね」
「あら……? 私の耳には『鮮血の王子』とか『血塗れ公子』っていう囁き声が聞こえていたんだけど?」
「『解体天使』に『血煙プリンス』ってのもあったな」
要と匠の無慈悲な切り返しに、黙って弁当を掻き込む蒐一。不本意ながら、自分の存在が抑止力の一翼を担っていたという自覚はある。
一人蚊帳の外を決め込もうとしていた蒐一を成敗したと見た匠が、改めて話を要と茜に振る。
「――で、俺たちが帰った後で、何かあったのか?」
「……有ったと言うか、無かったと言うか……」
「何の騒ぎにもならなかったの!」
「「――は?」」
この返答には、匠も蒐一も怪訝な声で応じざるを得ない。自分たちに突撃をかましてくる者こそいなかったが、それをして〝騒ぎにならなかった〟と言っていいものか?
「違うの! プレイヤーさんじゃなくって!」
「住人の反応の方なのよ」
「「……は?」」
続けて不得要領な顔の男子二人に、女子二人が説明するところによると……
「……は? 顔見知り?」
「それって、サンチェス船長が住人と――って事?」
「うん!」
「どうも、時々煙草とかを買いに、独りで宿場町に出ていたみたいなのよね」
「就職できて良かったねー――って言われてた」
「時々目覚めては、住民と交流を持っていた――という設定みたいなのよ」
「「はぁ!?」」
――これが驚かずにいられようか。
呆然としている匠と蒐一をチラ見しながら、要と茜は更なる爆弾を投げて寄越す。
「……それで、従魔契約の事があるし、ギルドに顔を出したんだけど……」
「船長さん、ギルドに登録してたの!」
「そのせいで、手続きが少し煩雑になったのよね……」
匠も蒐一も言葉も無いが、実は昨日のギルド内でも同じような光景が見られた。
ギルド内に居合わせたプレイヤーたちは、そこで衝撃の情報に接する事になったのである。




