第八十一章 微睡みの欠片亭 2.マハラの育成方針(その1)
【お詫び】前章の章番号修正しました。百八十章でなく八十章です(汗)。
シルとマハラが機嫌良くズートの葉を食べている傍らで、シュウイはマハラの育て方を考えていた。――いや、適切な食餌を与えて育てるという方針に揺るぎは無いが、
(……マハラが前衛向きなのか後衛向きなのか、まずその点をはっきりさせておかなくちゃだよねぇ……)
従魔は育て方次第で化ける――という情報を知った以上、その点を考慮せずに漫然と育てるという選択肢は無い。無いのだが……化けるような育て方とは、一体全体どういうものなのか。その点が判っていない以上、今のシュウイにできる事は少ない。結局のところ、適切な食餌を与えて育てるという前述の方針に舞い戻るしか無いのであるが……
(単純に成虫になるのを急がせればいい――って、そんな単純な話じゃないんだろうなぁ。何たってSROの運営だし)
幼虫状態のマハラであっても、何かしらの役に立つような仕込みをしているに違いない。なら問題は、幼虫状態のマハラをどう使うかという事になりそうだ。何はともあれマハラのステータス画面を確認するべきだろう。
(――って言っても、まだ種族レベル1だもんね。送還すれば回復するっていっても、無茶はさせられないし……スキルは【紡糸】だけか……きっとこのスキルをどう活用するかが鍵なんだろうなぁ……)
体長十五センチの芋虫を前衛や遊撃に使う馬鹿はいないだろうから、自動的に後衛もしくは銃後の生産に廻す事になる。ただ、どうやったらそこに【紡糸】というスキルを活かせるのか、それが判らない。単純に考えれば、糸なんだから生産関係だろうと思えるが、不幸にしてシュウイは生産関係のスキルは【錬金術(邪道)】と【調薬(邪道)】くらいしか持っていない。そのどちらにしても、デスヘッドの糸を素材とする調合法は思い当たらない。……となると、素材としての売買もしくはトレードだろうか?
そうだとしても、デスヘッドの糸が市井でどういう評価を受けているのかを知らねばどうにもならない。
(……掲示板でも覗いてみるかぁ……ほとんど眺めた事は無いんだけど……)
・・・・・・・・
小一時間ほど掲示板を漁ってみたシュウイであったが、参考になりそうな情報には行き当たらなかった。デスヘッドの糸は細い割に丈夫で切れにくい事、それゆえに裁縫関係の生産職からの要望が結構高い事を知れたのが収穫だろう。
従魔板も一応覗いてみたのだが、どとらかというと成虫に期待するような声が多く、シュウイが望んでいるような情報とは少し違っていた。
(う~ん……あの曲者の運営が、単に素材供給源としての役割だけを与えているとは思えないんだよね……)
仮にもモンスターなのだから、何らかの攻撃手段は持ち合わせている筈だ。ただ……攻略板を覗いてみても、デスヘッドの幼虫と戦闘になったという報告が見当たらなかったのである。態々掲示板に上げるほどの事も無いと、スルーされたのかもしれないが、単純に好戦的でないという事も考えられる。
しかし、好戦的でないという事と、戦闘能力が無いという事は別問題である。どうせSROの運営の事だ。絶対何か仕込んでいるに決まっている。
だがそうなると、デスヘッド幼虫の戦闘能力については、どうやって確かめたらいいのか? これが攻略組なら、〝実戦こそ最良の教師!〟とか言って戦闘に連れ出しそうな気がするが……
(けど……幾ら考えても、僕の隣でマハラが戦ってるようなイメージが湧かないんだよね……)
形は子亀とは言え、シルはシュウイと肩を並べて――実際にはシュウイの懐に籠もって――戦っているのだが、それは【力場障壁】という固有スキルあっての事だろう。しかし、【紡糸】というスキルをどう戦闘に用いればいいのか?
(糸を使った戦いっていうと……ラノベとかには「糸使い」なんて職業も出て来るけど、SROにはそんなの無かったしなぁ……)
糸で相手を捕捉して自由を奪い――という戦い方は、芋虫であるマハラにはそぐわない気がする。
(だとすると……クモみたいに網を――って言うか、罠を張るのかな?)
まだしもこちらの方が似合っていそうな気がする。だが、問題は似合う似合わないではなく、できるかできないかであろう。
こういうのは本職に訊くべきだろうと腹を括ったシュウイは、本職に向かって――
「マハラ、お前、糸を使って戦う事ってできる? トラップスパイダーみたいな網を張るとかさぁ……?」




