第八章 ナンの町 5.再びナンの町
無事にクエストをクリアした事で石の卵と石碑が消えてゆく。それを見てエレミヤが呟いた。
「やっぱりワンタイムクエストだった?」
「多分な……」
「あの……ワンタイムクエストって何ですか?」
「あぁ、SROのクエストには二種類あるんだ。条件さえ満たせば何度でも発生するリピータブルクエストと、誰かが一回クリアしたら二度と発生しないワンタイムクエスト」
「えと……つまり」
「つまり、そのカメさんはシュウ坊以外にゃ持てないってこった」
「あの……よかったんでしょうか?」
「いや、良いも悪いも、これはそういうゲームだからね」
「そうそう、早いモン勝ちなんだから気にする事ぁ無ぇや」
「実際、私たちにはクリアできなかった訳だからね」
「まぁ、その子を大事にしてあげる事ね」
「はいっ! そうします」
帰り道では何のアクシデントもなく、拠点を片付けていたコボルトやホブゴブリンが手を振って見送ってくれた。無論僕たちも手を振り返して応えたけどね。コボルトは少し及び腰だったみたいだけど……きっと気のせいだよね。
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そして一行は無事にナンの町に帰り着き、食堂で一服しながら話し込んでいる次第である。ちなみに子亀のシルはシュウイの懐に入っている。目立つといけないので。
「さて、先ほど運営から届いたメールだが……」
「テイマーシステムがどうとかってやつだな」
運営から届いたメールにはこうあった。
《プレイヤーの一人が従魔を得る事に成功しました。これによりテイマーシステムおよびサモナーシステムが解放されます。今後、従魔術および召喚術のスキルを持っているプレイヤーは、従魔を得る事ができるようになります。従魔の取得方法に関する情報がアンロックされましたので、該当するプレイヤーはスキルの説明をご覧下さい》
「誰かが従魔化に成功しないと解放されないジョブかよ……」
「相変わらずここの運営は鬼畜ですねぇ……」
「本当なら最初に従魔化するプレイヤーは大変だったんじゃ……今回はシュウイ君が斜め横からクリアしたみたいだけど」
「その分、何かの特典が用意されてたんじゃないか? ……本来は」
「だとしたら……シュウイ君、スキルか称号が増えてないかい?」
言われてシュウイは自分のステータスボードを開いてみる。スキル取得が思い通りにならないと解ってからは積極的に見る気も失せて、このところは入手したスキルの確認のために時折ちら見するだけだった。久しぶりに眺めたステータスボードに、燦然と輝く一つのスキル、二つのアーツ、そして一つの称号。
「……【般若心経】のスキルが取れてます……なぜかLvMaxで。……それと、【従魔術(仮免許)】と【召喚術(仮免許)】のアーツを取得してます。あと、『神に見込まれし者』っていう称号も……」
「……称号は多分、特撮ファンの運営のプレゼントでしょうね……」
「……どんな効果があるんだ?」
「えと……イベントの間はLUCの値が10上昇し、VITの値が3を切る事がなくなるみたいです」
「……イベントの間だけにせよ、随分とチートっぽいスキルだな」
「その一方で、戦闘とかにはあまり役立ちそうにないというか……使いづらそうではあるな」
「いや、だからこそ、ここまでの効果が貰えたのかもしれんぞ」
「いろいろと物議を醸しそうだから、普段は隠しておいた方が良いわよ」
「えと……ステータスボードを隠すんですか?」
「違う違う、ステータスボードの表記の一部を非表示にするんだよ」
ケインさんたちに教わって、とりあえず称号の箇所は非表示にしておいた。
「しかし、ようやく使えそうな……いや、他のスキルも充分に使えるんだろうが……少なくとも使い易そうなスキルがアーツの形で手に入った訳だ」
「良かったじゃねぇか、シュウ」
「ありがとうございます♪」
「……ちょっと待って。仮免許とはいえ序盤からアーツを持ってるって目立つんじゃない? いえ、それ以前に【従魔術】と【召喚術】って、両方取れるもんなの?」
ベルの指摘に考え込む一同。そういえば、このゲームでも他のゲームでも、従魔術師兼召喚術師というのは見なかった気がする……。
「……他のゲームだと、従魔術や召喚術はテイマーやサモナーの職を選んだ場合にのみ取得するスキルなんだが……あぁ、これだ。序盤で取得できるのは【テイム】か【サモン】のどちらか一方のスキルのみ。もう一つを追加で取得するには、スキルレベルが25以上で、かつスキルポイントを50ポイント支払う必要がある」
「実質的に無理だろうな」
「……ってぇと、シュウのこれはシステム解放特典ってやつか?」
「……二つ表示させとくのはヤバいかもね」
「シュウ、当分は非表示にしとけ。表示させる時も、どっちか一つだけにしろ。ついでに、ヤバそうな他のレアスキルも非表示にしちまえ」
「……そうしておきます」




