第八十章 その頃の彼ら 3.メイとニア
さて、「ワイルドフラワー」が掲示板に流した情報には、モフモフ党だけでなく数多くのプレイヤーが振り回されたのであるが……では、全てのモフモフ党が周章狼狽したのかというとそうではない。自分の従魔と望ましい関係を築いている――シュウイも一応はこのカテゴリーに入る――者たちもいたのである。
――例えばここアルファンの町に。
「どうだった? そっち」
「ん~……やっぱりめぼしい依頼は取られちゃってるみたい」
「開放された早々から、みんな殺到してたもんね」
どこかのんびりした口調で相談している二人の少女。下心満載の男どもが群がってくる程度には整った顔立ちをしている。
なのに、この二人に近寄ろうとする男どもがいないのは……彼女たちの後ろに控えている使役獣が原因であった。
――Lv7強のウルフが二頭。
そんな強面のボディガードが辺りを睥睨していれば、そりゃ、余程の腕自慢か馬鹿でなければ、近寄るのを躊躇うに決まっている。
少女二人とウルフ二頭から成るパーティ「モフモフの旗」……メイとニアの二人であった。
メイとニアの二人がここアルファンの町にいるのには理由がある。
その最大のものは、彼女たちの言う「モフモフな生き物」を見たい、触りたいという欲求であろう。何しろ少し前まで滞在していたナンの町では、出て来るモンスターは爬虫類系や節足動物系の……言い換えればモフモフとはかけ離れたものばかりであったのだ。モフモフとの触れ合いを夢見てこのゲームに参加した彼女たちにとって、ナンの町は鬼門以外の何物でもなかったのである。
いっその事トンの町に戻って引き籠もろうか――などと大真面目に相談していたところで、事態の方が先手を打って大きく動く事になった。
最初に起きたのは、プレイヤー第二陣の参入である。これ自体は予想された事であったのだが――新規参入したプレイヤーが、住人との伝手を求めて冒険者ギルドに殺到するなどというのは想定の外にあったし……況してや、NPCの指導係の払底に手を焼いた冒険者ギルドが、トンの町に滞在中の第一陣プレイヤーに新人指導を押し付ける――などとは想像もしなかった……いや、できなかった。
掲示板でこの事態を知ったメイとニアは、触らぬ神に祟り無しとばかりに、トンの町から距離を置く事を選んだのであった。
さてそうすると、今度はどこへ行くのかというのが問題になってくる。風の噂によれば、指導にあぶれた新規プレイヤーたちは、トンの町どころかイーファンの宿場まで蚕食を始めているという。このままナンの町に雪隠詰めになるのは確定か――と消沈していたところへ、アルファンの宿場が開放されたというメッセージが流れた。これぞ天啓とばかりに、さっさとアルファンへやって来た――というのがこれまでの経緯なのであった。
「どうする? 適当な常設依頼でも受けて、フィールドに出よっか?」
「でもメイちゃん、どんなモンスが出るのか、まだ能く判ってないよ? 行き当たりばったりはリスクが大き過ぎない?」
「う~……それはそうなんだけど~……」
あれやこれやの事情でナンの町に雪隠詰めとなっていたため、ここ暫くモフモフ成分が欠乏している。できれば補給しておきたいのが人情ではないか。
「でも、肝心のモフモフがいるって確証は無いわよ? 意気込んで出てみたところがスカばっかりだと、却ってモチベーションが低下しない?」
「う~……」
ニアの言い分にも一理はある。外れどころか地雷ではないかと思えそうなグロテスクなモンスター――これはこれで、一部のプレイヤーたちから熱い支持がある――に襲われでもしたら、改めてフィールドへ出ようという気が起こらない。
どうしたものかと悩んでいた二人に、相棒であるウルフたちが鼻面を寄せてきた。
「ハック……」
「……そうだよね。ジャックたちも外へ出たいよね」
ニアの呟きに二頭が唸り声で同意した事で、「モフモフの旗」の予定が定まったのであった。
・・・・・・・・
――斯くいった次第でフィールドに出て、依頼にあったゴブリンを討伐――モフモフでないので容赦は無い――していたところ、相棒のウルフたちがつぃと茂みに入って行った。
「ハック?」
「ジャック、どうしたの?」
主たちの問いかけに応えるように、二頭のウルフが引き連れて来たのは……
「……ハック、ジャック……あんたたち、何を連れて来たの?」




