第七十八章 「キャプテン」 14.サンチェスさんの従魔学講座~実習篇~(その1)
「実習……という事になるのかしら?」
「はい。さきほどの僕の苦言は苦言として、お嬢様方はできるだけ早く従魔を手に入れたい事情がおありのご様子。であれば、この界隈を少し歩かれて、適当な従魔候補に出会えるかどうか、試してみるのも一案かと」
「ねぇねぇ船長さん、それって、船長さんがモンスの解説してくれるって事?」
「非才の身ではありますが、これでもお嬢様たちよりも長くこちらに住んでおりますからな。僕にできる限りの説明はさせて戴きます」
サンチェスの提案は、「ワイルドフラワー」の面々にとっては渡りに船であった。仮にも「ガヴァネスの弟子」称号を貰って使役術を身に着けた以上、従魔や召喚獣と契約してみたいのは人情である。それだけでなく、宙ぶらりんになっている謎クエストの件だってある。サンチェスという従僕を得て長期滞在に不安が無くなった以上、早めに従魔なり召喚獣なりを得ておきたい。
シュウイもタクマにしても、サンチェスが実地で使役獣の説明をしてくれるというなら、これは是非とも聴いておきたい。タクマは使役術のスキルは持っていないが、チームメイトには召喚術と死霊術のスキルホルダーがいる。ここは彼らに代わって聴いておくべきだろう。
「それでは参りましょうか」
・・・・・・・・
「ほほぅ……シュウイ様の僕は、どちらもシュウイ様に懐いているようですな」
好い機会だからと、シュウイはシルとマハラのお披露目に踏み切った。メンバーの為人はカナとセンが保証してくれたので、細かな事情についてもカミングアウトしてある。サンチェスの指導と助言を仰ぐ上で、下手な隠し事は悪手だろうと意見が一致したのである。どうせいつかは事情を説明する日が来るのだ。それが今日でも悪い事は無い。
――という事情でシルとマハラをサンチェスに紹介したのだが、両者との対面を済ませたサンチェスの第一声が先のようなものであったのだ。
「そういうのって判るんですか?」
シルとマハラが自分に好意を持ってくれているのは何となく判るのだが、【従魔鑑定】の画面でも、そういったパラメーターは示されない。スキルのレベルが上がれば見られるのかとも思ったが、どうやらマスクデータになっているらしい。その数値を確認できる手段があるのなら、それは是非とも知っておきたい。
「まぁ、何となくですがな。従者が主人にどういう感情を抱いているのかは、従者同士は判るのですよ」
シュウイとタクマ、ついでにセンはへぇ~と感心しているだけだが、聞いているカナたちはそれどころではない。プレイヤーの評判が使役獣を介して他の使役獣に伝わるという事は……
「然様ですな。この手の噂は足が速いものですから、異邦人の方々と契約していない者にも、遠からず伝わりましょう」
つまり……使役獣からの評判の宜しくないプレイヤーは、新たな使役獣を持てなくなる可能性が高いのだ。
「……またしても爆弾情報が飛び出したわね……」
「……これも掲示板に上げるのかよ……あたしが……」
「ねぇねぇカナちゃん、そんなに大変な事なの? 可愛がってあげてればいいんじゃない?」
「さっきの話を忘れたの? 猫可愛がりして甘やかすだけじゃ、駄目な主人だっていう評判が広まるかもしれないのよ?」
「どっちかって言うと、そっちのトラップに引っかかってるやつが多そうだよな」
頭を抱えている一同――キョトンとしているシュウイを除く――を尻目に、センは気になっている事を訊ねる。
「ねぇねぇ船長さん、従魔の子たちが自分をどう思っているか、どうやったら判るのかな?」
確かにこれは知っておきたい情報だ。ステータス画面のようなものでパラメーターを確認する事はできないようだが、使役獣の素振りや態度からそれを知る事ができるのなら……
「然様ですな……。僕にしても詳しい部分まで存じておる訳ではございませんが……押し並べて好感度が高くなると、意思や感情をはっきりと示すようになる者が多いようですな」
「遠慮が無くなるって事なのかな?」
「まぁ、そう思って戴ければ」
これを聞いたシュウイは考え込む。マハラとはまだ付き合いが浅いが、シルの場合はどうだろうか? こちらからの問いかけには素直に――身体言語で――答えてくれるし、食べたいものがある時は遠慮無くその感情を伝えてくる。……まずは良好な関係を築けていると言っていいのか?
「……いや……それ以前にサンチェスのおっさんが、お前に懐いてるって言ってたろ?」
「……それはそうだけど……やっぱり確認しておきたいっていうか……」




