第七十八章 「キャプテン」 13.初顔合わせ
騒動の嵐が一とおり過ぎ去ったと見たか、シュウイがカナに声をかける。
「ねぇカナちゃん、そろそろ他のメンバーさんに紹介してくんないかな?」
「え? ……あぁ、そう言えば……ちゃんと紹介してなかったわね」
何しろのっけから衝撃的なアレコレが続いたため、タクマとシュウイの紹介など後廻しになっていたのである。
「えぇと……確かエリンは知っていたわよね?」
「うん。衛里花さんだよね? リーダーだったっけ?」
「そ。と言っても、大抵はカナにお任せなんだけどね」
「あ~……それは……」
「何と言うか……」
要するに、カナがしでかした事の後始末を押し付けられているんだろうな――と、幼馴染みとしての経験から察してしまう男子二人。
「……何かしら?」
そして、同じく幼馴染みとしての勘で、男子二人の心の動きを察知するカナ。
「ん~ん? 何でもないよ?」
「それよかさっさと紹介してくれ」
「……そう? まぁいいわ。こっちの二人がサフランとミモザ。二人とも【召喚術】のスキルを持っているわ。……サフラン、ミモザ、背の高い方がタクマ君で『マックス』のメンバー、背の低い方がシュウイ君でソロの冒険者よ」
地味にシュウイのコンプレックス――背丈――を突くような紹介の仕方であったが、まさか〝女顔で可愛い方がシュウイ〟などという説明もできないカナとしては、精一杯のところであったろう。
「えーと……よろしく」
そして、シュウイの表情から何となく事情を察したサフランが、きまり悪げに挨拶する。
「……うん、よろしく。シュウイです」
「よろしくな、タクマだ」
そして、残る一人のミモザはと言えば……
「改めて初めまして、『朱の君』」
「……はい?」
……初対面早々にやらかしていた。
・・・・・・・・
「……つまり、さっきの『赤い貴族』とかいうのは、僕の渾名だと?」
「赤い男爵」なら第一次大戦で深紅のフォッカーを駆って勇名を馳せた戦闘機乗り、リヒトホーフェン男爵の異名であるが。正確に聞き取れなかったのか、それともショックが大きかったのか、シュウイの記憶には混乱があるようだ。ミモザも空気を読んだらしく、敢えて訂正するようなKYな真似はしていない。
「ん。正確にはその数多ある候補の一つ。まだ確定はしていない」
口には出さないものの、勘弁してくれとシュウイは思った。ただでさえ「微笑みの悪魔」だの「惨劇の貴公子」だのという物騒な二つ名を――リアルで――頂戴しているのだ。これ以上剣呑な異名など欲しくはない。……他の候補については訊かない事にする。
(「……いや、けどなシュウ、ある意味でカモフラになるんじゃねぇか? リアルでも似たようなもんだとは、まさか思わぇねだろ?」)
(「……逆に連想が働いて、僕の事を思い出すやつがいるかもじゃん。一人でも思い出したら、それで終わりなんだよ?」)
(「それもそうか……」)
などと男子二人が囁き交わしている一方で、当のミモザはカナとエリンから説教を喰らっていた。
「お前な、幾ら何でも失礼だろ? いきなり渾名で、それも本人が知らないような二つ名で呼びかけるなんて」
「マナーとしてあまり褒められたものじゃないわね」
「……ん。悪かったと思ってる。噂の主の実物に会えて、ちょっと舞い上がってた」
(「噂……実物……」)
(「そこはスルーしろ。本人に悪気は無いみたいだ」)
「ほら、悪いと思ってるんならさっさと謝って」
「つい興奮して暴言を吐いてしまいました。シュウイ君、ご免なさい」
「あたしからも謝るから、勘弁してやってくれよな。二つ名厨なんだよ、こいつ」
「「二つ名厨……」」
そんなものがあるのか、世間は広いものだと思ったが、目下シュウイが気になっているのは別の事である。
「え~と……ミモザ……さん?」
シュウイが指導を受け持っている新人の一人、エンジュの姉もミモザといった筈だ。確かエンジュは自分と同じ高校一年生だと言っていた。その姉だとしたら、年上になるのではないか?
「ミモザでいい」
――とはいうものの、総じてVRゲーム内ではリアルの年齢や立場をどうこう言うのは野暮というものである。
「じゃあミモザ……ひょっとして、妹さんもSRO、やってない?」
同じゲーム内に同じキャラ名の者がいるとは思えないが――と思って訊いたら、案の定……
「ん。エンジュという名前でプレイしてる筈。……知り合い?」
……世間は広いようで狭いものだ。
「あ~……え~と……ちょっとしたいきがかりで、妹さ……エンジュの指導をしています」
あぁ、シュウイの特訓を受けていた女の子か――と納得したのは幼馴染みの三人組。シュウイの方はと言えば、やり過ぎだと責められるのではないかと、内心冷や冷やものである。
「あぁ……すごく濃密な指導を受けてレベルが上がったと喜んでた。ありがとう」
「あ……いえ……」
どう濃密なのかについての説明は端折ってくれたらしい。心配りに感謝である。
「さて……どうやらご挨拶もお済みのようですし、宜しいですかな?」
頃合いを見計らっていたのか、そう声をかけてきたサンチェスに、全員の視線が集中した。




