第七十八章 「キャプテン」 5.サンチェスさんの従魔学講座~座学篇~(その2)
シュウイ・タクマの男性組は、自分たちの経験とペット観からサンチェスの諫言に納得しているだけだが、その一方でワイルドフラワーの女性陣は、ゲームという枠の中でこの問題を捉えていた。もしもサンチェスの言うとおりに、従魔のAIがそこまでの人格を与えられているのだとしたら……
「……この情報って、一刻も早く拡散しないと拙いんじゃ……」
キャラクリの段階からから使役職を選んだようなモフモフの亡者……失礼、愛好家であれば、契約した従魔を粗略に扱うとは考えにくい。問題なのは、カナたちの報告が契機となって、後付けで使役スキルを得た俄使役職たちであろう。彼らにとって従魔とは、現実のドローンのように便利な道具でしかない――少なくとも、その可能性が否定できない。もしも彼らがお試し感覚で従魔と契約を結び――そしてそれを破棄していたら、従魔たちの対人感情が悪化する危険性を無視できない。人間不信が従魔以外の動物やモンスターにまで拡散したら……
「……最悪、先行のモフモフ愛好家と後付け取得組との対立が、先鋭化する虞があるわね……」
「リーダー、報告待った無しじゃん」
「またあたしかよ……」
「そこはホラ、腐ってもリーダーなんだから」
「腐ってないっつーの!」
「ま、モフモフ党はペット感覚で猫可愛がりするだろうから問題無いとして……」
「それがそうとも言えないのですよ」
「「「「「――え?」」」」」
不吉に割って入ったのはサンチェスであった。
「アクセサリーでもアイテムでもないのは勿論ですが、従魔は単なる愛玩物でもありません。歴とした感情と人格を持つパートナーなのですよ。彼らにとって、主の役に立てないという事は苦痛でしかありません。況して、役に立っていないにも拘わらず愛玩されるなどというのは……。役に立てない心苦しさに耐えかねて、自ら契約を切って失踪する事もあるのですよ。……勝手に契約を切る事がどれだけ危険なのかを承知の上で。役に立たない自分など捨てて、もっと有能な従魔と契約してほしい。……そう思い詰めて、命を懸けて身を引く事があるのですよ……」
「「「「「「「………………」」」」」」」
モフモフ党の存在意義を根底から覆すような発言に、シュウイもタクマもドン引きの体である。
(「……早い話、使役スキルを取ったプレイヤー全員が間違えてるって事?」)
(「そういう事になるみたいね……」)
(「大事じゃん」)
「……って、どうすれば……?」
「何、難しく考える必要はありません。最初から従魔に強さや有能さを求めるだけではなく、主とともに成長させてやってほしい――ただ、それだけなのですよ」
それだからこそ、使役職のプレイヤーは従魔と経験値を分配するのだ。そう聞かされてシュウイはへーっと――今更ながら――感心している。成り行きで使役主になったシュウイにとっては初耳である。……尋常ならざる数のモンスターを狩っているため、分配してもなお規格外の経験値を得ていたために、今の今まで気付かなかったらしい。
また、シュウイとしては今それを知ったところで別に不都合とも何とも思わない。シルがいなければ抑ここまで戦えていないし、マハラもいずれは役に立ってくれる筈だ。
ただ……シュウイには一つだけ気懸かりな事があった。
(……僕が冒険者のままクラスチェンジできないのは、シルと経験値を分け合っているのが影響してるのかな……?)
寸刻そういう疑いを抱いたシュウイであったが、すぐにそれはないかと思い直す。クラスチェンジはできないようだが、レベル自体は――チートじみた勢いで――上がっているのだ。それに、他の使役職プレイヤーは何も騒いでいないのだから、彼らは順当にクラスチェンジを済ませたのだろう。……やはりユニークスキルの「スキルコレクター」が怪しい。




