第七十八章 「キャプテン」 4.サンチェスさんの従魔学講座~座学篇~(その1)
作中の言動が多少物議を醸すかもしれませんが、あくまで作劇上の都合による、作中人物たちの見解であるという事で。
「成る程……従魔をお探しでしたか」
カナたちがイーファンの宿場くんだりまでやって来ていた事情、それを説明された時にサンチェスが漏らした一言である。
「そう。ほとんど成り行きで使役術を覚えたもんだから、召喚獣も従魔もいないのよ」
――そういうのは使役術師と呼ばないのではないか? 頭の片隅でチラリとそんな事を考えたサンチェスであったが、それはともかくとして、今は従魔の話である。
「サンちゃんは何か、良いモンスとか知らない?」
「サンちゃん……」
「セン……さすがに〝サンちゃん〟は拙いんじゃ……」
「似合う似合わないとか、向き不向きとかさぁ……センも少しは考えた方が良いよ?」
「う~……」
「……何でしたら『キャプテン』とお呼び戴ければ」
「う~……『キャプテン』……船長!」
「おぉ♪ それで結構です」
なぜか嬉しそうなキャプテン・サンチェスを見て、何となく違和感と警戒心を抱いた一同であったが、この後に続くサンチェスの発言を聞いて、その違和感も警戒心も綺麗さっぱり雲散霧消する事になる。
「それはともかく……軽々しく従魔と契約を結ぶのはお勧めしませんな」
「へ?」
「なぜ?」
従魔と契約できないというなら、自分たちはなぜ使役術師の弟子などになったというのか。
承服しかねるという顔付きの一同に向かってサンチェスは首を振る。〝契約を結ぶ〟事に問題は無い。問題なのは、〝軽々しく〟という部分なのだと。
「僕の邪推であればお詫びしますが――お嬢様方は〝試しに契約してみようという〟程度の軽い考えで契約に臨もうとしていらっしゃるのでは? 〝駄目なら契約を切ればいい〟ぐらいに考えて」
単刀直入なサンチェスの詰問に、何人かのメンバーが視線を逸らす。どうやら核心を衝いたようだ。それを見たサンチェスは溜息を――横隔膜どころか肺も無いのにどうやって、などと考えてはいけない――一つ吐くと、彼女たちの心得違いを諄々と諭す。
「僕もそうですが、従魔たちは己の生涯を捧げる覚悟で主と契約を交わすのです。それが弊履のように打ち棄てられる……。従魔たちは悲しむでしょうな。自分のどこが至らなかったのかと。どうすれば主に満足してもらえたのだろうかと、自問自答を繰り返すでしょう」
サンチェスには咎めるようなところはなく、淡々と、しかしその中に哀しみを漂わせた口調で話す。それ故に、サンチェスの言葉は却って一同の胸を衝いた。
「生涯を掛けて仕えるつもりだった相手から切り捨てられる。その理由が単なる気紛れであったと知ったら……恨むでしょうな、主を。……そして、人間を」
「「「「「………………」」」」」
ワイルドフラワーの女性陣一同が寂として声も無いのとは対照的に、シュウイとタクマの男性陣は納得したように頷いている。リアルで犬を飼っていた経験のある巧力蒐一と瀬能原匠にしてみれば、一旦飼うと決めた以上は最後まで面倒を見るのは当然自明の事であり、飽きたからという理由で捨てるなど言語道断の暴挙である。最近は飼いきれなくなったペットを〝自由にしてやる〟という美名の下に捨てる者もいると聞くが、幾ら言い繕ったところでそんなのは飼い主の責任放棄であり、許される事ではない――というのが二人の見解である。ゆえに――
「お試し契約などというのは人間側の勝手な言い分であって、従魔の側にはそういう概念はありません。彼らにとって契約の解除とは、束縛からの解放などではなく、無責任な切り捨てでしかないのですよ」
――というサンチェスの指摘には、二人とも異論無く納得できたのである。




