第七十八章 「キャプテン」 2.ようやく現在
「そういう事情かぁ……」
「全然知らなかったからなぁ、俺たち……」
この件について、タクマとシュウイが今に至るまで知らなかったのはなぜかというと、実はリアルでの事情が絡んでいて、今日が偶々高校の創立記念日だったからである。本来なら四人で集まってどこかへ行こうという計画であったのが、土壇場になって茜が家の都合――別居している祖父が転倒して骨を折ったらしい――で参加できなくなったため、集まるのはお流れになったのである。昼間に集まる事が無くなったため、要から事情を聞く機会が失われ、ログインするまで知らなかったという経緯であったのだ。
ともあれ事情を聞いた二人は、改めてキャプテン・サンチェスに目を向ける。
「しかし……あの見た目って、何てぇか……」
中世風の派手な衣服に羽根飾りの付いたソンブレロ、腰にはピストル――それも二丁拳銃――にカットラス。得物がサーブルやエペでないのは残念だが……
「黄金バットって感じだよね……紙芝居版の」
「……なんで知ってるんだよ? そんな古い話」
「こうもりさん?」
「ワハハハハ……」
「「やめろ」」
割と乗りの良いキャプテン・サンチェスであった。
「けど……『サンチェス』かぁ……確か、『サンチョの息子』って意味だよね。……従者がサンチェス……」
「シュウ君? ご期待に添えなくて悪いけど、私は私は風車に突撃したりしないわよ?」
「うん。カナちゃんはそういうタイプじゃないよね」
そんな会話をしているカナとシュウの後ろでは……
(「……おぃセン、何の事だか解るか?」)
(「実は解る。『ドン・キホーテ』の話の筈」)
(「おぉっ、凄ぇな。お前本当にセンか?」)
(「えっへん。我を崇めよ~」)
――などという気の抜けた会話がなされていたりするところへ、いきなり爆弾を放り込んだのはサンチェスであった。
「何はともあれ、これから宜しくお頼み申し上げますぞ。特にシュウイ様とは、同類の誼みという事もありますからな」
「「「「同類!?」」」」
サンチェスとシュウイが同類。……聞き捨てにはできない発言であった。
「……それって、どういう意味なのかしら?」
問い詰めたげな一同を代表する形で、キリッとした中にもヒンヤリとした空気を纏って質問を放つカナ。しかし、サンチェスの方は落ち着いたもので、
「文字どおりの意味ですな。シュウイ様は神からの祝福をお持ちでは? 僕も同じようなもので、神々からの……まぁ期待を受けて生まれた訳ですな。なのでご同輩とお呼びした次第。お気に障ったのならご容赦を」
「いや……別段不愉快とか思わないけど……そっかー……」
「スキルコレクター」という曲者スキルを押し付けられた形のシュウイとしては、このサンチェスというキャラも同じような苦労をしてきたのではないかと、同病相憐れむ気持ちになっていた。しかし、他の面々はと言えばそれどころではなく……
「……って、何か? このオッサンもシュウと同じチートキャラって訳か?」
「オッサンではなく、キャプテン・サンチェスと呼んで戴きたい」
「……おぃタクマ、僕がチートキャラって、どういう事だよ?」
「あぁ、いや……悪い、失言だった」
「タク君、失言が多いよね」
「……他人の事を言えんのかよ、セン」
(「目糞鼻糞……」)
「「――あぁ?」」
「ん~ん? どうかした?」
――などと三人がじゃれ合っている傍らで、当のサンチェスの使役主になってしまったカナは頭を抱えていた。
「……まさか……シュウ君みたいに騒動の中心になったりしないでしょうね……?」
カナから災いの元凶扱いされたシュウイは剥れているが、これは客観的かつ妥当な評価というものであろう。ちなみに、センを除く「ワイルドフラワー」の面々は、当のシュウイの為人や戦歴戦果について知らない事もあって、賢明にも沈黙を貫いている。
「いやいやお嬢様、僕はシュウイ様よりもこちらでの生活が長い訳ですからな、きっとお役に立てますぞ」
疑い深そうな視線を向けるカナに向かってサンチェスが言うには、
「取り敢えず、お嬢様方の目的とやらを進めようではありませんか」




