第七十八章 「キャプテン」 1.巡り会い、カナ
長い一日の始まりです(笑)。
さてそれでは、カナを襲った災難とは、そして幼馴染み二人を呆然と脱力させた事情とは、一体全体何なのか。その気力も無くなった様子のカナに代わって事情を説明すると、始まりはこれまたやはり昨日の事であった……
・・・・・・・・
契約すべき従魔を求めて山中を彷徨い歩いていた「ワイルドフラワー」の行く手で、茂みがガサリと音を立てた。即座に警戒態勢を取った彼女たちの眼前に現れたのは……古ぼけた十八世紀フランス銃士風の衣装を纏った人物?であった。
これだけでも充分に怪しいのだが、更に怪しさを上塗りする事に、その人物?は一般的な意味での「人物」ではなかったりする。
その存在自体は囁かれながらも、つい最近まで誰も実見した事が無かった存在――スケルトンであったのだ。ついでに言うと、確認された唯一のスケルトンも死霊術師のサーヴァントであり、野生(?)のスケルトンは今に至るまで確認されていない……いや、いなかった。
そんなスケルトンを目にして、すわ敵出現かと身構えた「ワイルドフラワー」であったが、見ればマーカーの色は敵対を示す赤ではなく、中立を示す黄色である。怪訝な面持ちを隠さない「ワイルドフラワー」の面々に向かって――
「待った待った、お嬢様方、僕は怪しい者ではありません」
「充分怪しいわよ!」
これが怪しくなければ、この世界に怪しい者など存在しない――そう言わんばかりに切って捨てたのは、日頃感情を露わにする事の無いカナであった。……ひょっとすると、この後の展開を摩訶不思議な力で予見していたのかもしれない。
「まぁまぁお嬢様方、とにかく僕の話をお聞き下さい」
その怪しげなスケルトン――怪しくないスケルトンというものが存在するのかどうかは別として――の言うには、彼は自分の主人となるべき者を探しているのだという。彼が目覚めるためには幾つもの面倒な条件が課せられていたのだが、この度その条件をめでたくクリアーしたのが「ワイルドフラワー」という事らしい。
「お生憎。誰も死霊術なんか持ってないわよ」
「何、大丈夫です。僕はこう見えてもアンデッド扱いではありませんのでな。ただ、契約して下さればそれで充分」
「……誰と?」
ある意味で最も決定的な質問を口にするセン。他の四人は身動ぎもせず、全身を耳にして、回答や如何にと待ち構えている。
張りつめた緊張感を破ったのは、のんびりとしたスケルトンの返事であった。
「判りませんな。こればっかりは神々の思し召し次第という事で」
「「「「「――はぁ?」」」」」
聞けば、こういう場合は全員で【馴致】または【召喚】の呪文を唱えて、誰に当たるかで決める事になっているのだという。
その説明と同時に、彼女たちの眼前に半透明なウィンドウが姿を現す。
《特殊クエスト「キャプテン・サンチェスの解放」を受諾しますか? Y/N》
彼女たちが躊躇ったのはほんの寸刻であった。
アレと進んで契約したいかと訊かれると肯定しづらいが、契約するのはこの中の一人だけ。同じパーティなのだから、残りは問題無く契約の恩恵に与れる訳だ。ババを引く一人には申し訳無いが、何よりこれはクエストである。ここで見逃す手は無いだろう。
「最大多数の最大幸福」という美名――もしくは悪魔の囁き――につられ、躊躇いながらも魅入られたように頷くメンバーたち。なぜか代表としてカナが――タップする事が選択に影響しない事を諄いほど確かめた後で――Yをタップする。
と――ドラムロールのような効果音が響き渡り、全員がそれぞれの呪文を唱えた後で……
「何故っ!?」
運命が選んだのは――案の定――カナであった。
「いやぁっはっはっは、これから宜しくお頼み申し上げますぞ、お嬢様」
いつの間にかスケルトンが着ていた衣装は、古ぼけたところなどどこにも無い煌びやかな新品に替わっている。間違い無く契約が結ばれたという証なのだろう。
力無く頽れるカナの後ろで、他のメンバーたちは嬉々としてハイタッチしていたり。
「えっと……ファイトだよ! カナちゃん!」




