第七十七章 SOSカナさん 2.シュウイの経緯(その2)
あの暴れっぷりならさもありなん――と二人が納得したところで、シュウイは説明の続きに移る。シュウイなればこそ気付けたアドバイスに。
「逆に言うと、駄目スキルに見えてもレベル3で化ける可能性がある訳だよね。そこまで育てるのは大変だけど」
「「成る程……」」
【器用貧乏】があるとかなり楽なのだが、このスキル、初期状態ではSPで入手できるもののリストには載っていない。レアスキルの中では比較的拾い易い部類に属するが、取得スキルのレベルを3よりも上に上げるのは――【器用貧乏】自体のスキルが上がらないと――難しいため、スキル枠制限の事もあって、ある程度スキルを上げ終えたら捨てられる事の多い不遇なスキルである。
ちなみに、【器用貧乏】自体の取得は序盤ではほぼ偶然に頼るしか無いため、シュウイは説明を省いている。
「軽々しく捨てない方が良いという事ですね?」
「うん、けど実際にはスキルスロット枠の制限があるから、中々難しいとは思うけどね」
「このゲーム、一度捨てたスキルは得にくい仕様になってますし……」
「判断が難しいですね……」
「ま、それを上回ってスキルの種類が多いから。当面は使えそうなスキルの獲得を目指す方が良いかもね」
そういう狙いからすると、今後は採集依頼や雑用依頼を受けさせる方が良いのかもしれない。問題はスキル枠なのだが、実は両名ともスキルスロットを半分以上空けて参加した勇者である。
「いえ、どんなスキルが好いのか判らなかったから、先人に訊いてから決めようと思っただけですよ?」
モックの弁解にエンジュもコクコクと頷いている。まぁ、ちょっと初心者には判断が難しいくらいにスキルの種類が多いから、これは無理のない判断かもしれない。この辺り、万事手探りだった一期組と違い、二期組ならではの判断と言えそうである。
「まぁ、生活に必要なスキルとかは、依頼をこなしていくうちに手に入ると思うけど……問題は志望に関わるスキルなんだよね」
新人指導を任されるに当たって、シュウイと言うか蒐一は改めてSROの事を――その一般的な展開を――調べていた。それによると、問題となりそうなのは転職である。
このゲーム、スキル自体を得る事はさほど難しくないのだが、調子に乗ってアレコレと手を出していると、転職の際に泣きを見る事になる。……と言うか、泣きを見た一期組が多かった。何の事かと言うと、転職時に示される職業リストには、保有スキルに合わせた職が提示される仕様になっているのである。
「まぁ、狙っている職業がリストになかったら、転職を遅らせて必要スキルを集めるっていう手もあるみたいだけどね」
それだとどうしても遅れるのは避けられない。効率的な転職を目指すなら、狙う職業に必要なスキルを早めに取得しておくのに越した事は無い。ただ、ここで問題となるのが、二人が狙っている職業にあった。
「宝石職人も吟遊詩人も、今回初めて実装された職業だから……」
「必要スキルとかも判ってない事が多いんです」
「あ~……このゲーム、そういうところは自助努力任せだから……」
とりあえずは情報を集めつつ、必要スキルの取得とレベルアップを進めるしか無いだろうと話していたところに、カナから緊急のメールが届いたのであった――内容は、ただSOSとだけの。
あのカナがSOSを送って寄越すなどただ事ではないと判断したシュウイは、二人に詫びを入れて、とりあえずイーファンの宿場を目指す事にしたのだが……
「――え? 予約が一杯?」
「おぉ、何だか知らねぇがイーファン向けの便は予約が多くてな」
トンの町で住人による指導を受けるのに失敗した――と言うか、あぶれた――二期組が挙ってイーファンを目指したために、第二陣参入開始から一週間を経た今でも、馬車の予約は満杯らしい。現状では夜行以外に空いている席は無いという。一瞬歩くかと考えたシュウイであったが、聞けば歩いても所要時間はあまり変わらないらしい。シュウイは【疾駆】スキルを持ってはいるが、あまり人前で使いたくはない。
・・・・・・・・
……斯くして、シュウイは夜行馬車でイーファンに行く事を選択し、それまでの時間は狩りで潰す事にした。ログアウトとログインは馬車の中という事になったが、特に問題無ログアウト・ログインできた。
斯様な事情の結果として、シュウイは現在イーファンの宿場にいるのである。




