第七十六章 篠ノ目学園高校 6.放課後(その4.ズートクエスト)
「……ズートの葉……って、何かしら?」
ポツリと呟いた蒐一の独り言を聞き逃さなかった――子供の頃から彼女はこうだった――要が、目許口許だけはにこやかに――視線は笑っていない――蒐一に訊ねた。
「何々? また何か見つけたの?」
「おいコラ蒐、隠してないでキリキリ吐け」
「いや……別に隠すつもりは無かったんだけど……」
友人たちの態度にどこか釈然としない思いを抱きつつ、素直に報告を続ける蒐一。淡々とした口調の報告が続くのに比例して、段々と表情が抜け落ちていく三人。
「……ズートの葉って……そんなレアアイテムを貰ったのかよ……?」
「いいなぁ……リスさんたち、こっちにも出ないかなぁ……」
「いえ、それよりも……そんなタイミングでクエスト終了のメッセージが出たの?」
「あ~……確かにそっちも問題だよな」
「何でさ?」
今一事情が呑み込めていないらしい蒐一に、一応はβプレイヤーの三人が説明していく。
「クエの開始と終了の条件が判らないと、検証のしようが無いだろ」
「ズートの苗を貰った時から数えると、随分長い事かかったよね?」
「あぁ……言われてみれば……」
最初にクエストが始まった時から数えて、ざっと二週間が経過している。途中ログインできなかった日があるとは言え、それでも長いと言って差し支えないだろう。
「結局、終了条件は何なんだ?」
「ツリーフェットから移植の成否を聞く事かしらね? 勿論、移植が成功したという前提が必要なんでしょうけど……いえ、成否は関係無いのかもね」
「どういう事? カナちゃん」
「多分だけど……引き続いて新たなクエストが発生した事を考えると、これは成功報酬なんじゃないかって気もするのよ」
「あ? ……って事は、失敗する事もあるって事か?」
「えぇ。その場合は単にクエストの終了が告げられるだけでしょうね。次のクエストの事には何も触れずに」
「あ~……隠しクエストか……このゲームだとありかもなぁ……」
一同うんうんと頷いたところで、要が次なる懸念を口にする。
「新たなクエストの行方も気懸かりだけど、その前に……」
と、蒐一の方に向き直り、
「蒐君、ズートの実の試食会とその種蒔きクエスト、バランドさんも巻き込んだのよね?」
「? うん」
何の事か解らずキョトンとした顔で頷く蒐一を見て、小さな溜息を吐く要。と同時に、幼馴染み二人も遅れ馳せながらその意味に気付く。
「あ……クエストにNPCまで巻き込んだ訳か……」
「そう。恐らく運営側も困惑してると思う」
「クエストの成否自体に関与する事になるからなぁ……」
「バランドさんが【分離】した種子――っていうのが曲者よね」
「ねぇねぇ蒐君、ズートの実って美味しいの?」
要と匠の思案などどこ吹く風と、ズートの実の味に興味津々の茜。思わずガックリしてしまう二人であったが、
「うん、もの凄く美味しかった。何て言うか……マンゴスタの実とはまた違った感じで……ねっとりしてるのにさっぱりしてるって言うか……」
「うわぁ……ねぇねぇ、少し分けてもらえないかな?」
「う~ん……SRO内で会えるのがいつの事になるか判らないし、シルがもの凄く気に入ってるんだよね。シルのレベルアップに関わってくる可能性もあるから、確約はできないかな」
「む~……残念なり」
「おぃ茜……最初にそこに食い付くのは、βプレイヤーとして、いや冒険者としてどうかと思うぞ?」
「え~? だって、『かつて味わった事が無い美味』だよ? 匠君は気にならない?」
「いや……俺も気にはなってるけどな……」
「蒐君、ちょっといいかしら?」
食いしん坊二人の会話に巻き込まれては、話がどこへ着地するのか知れたものではない。そう判断したのか、二人を置き去りにして要が蒐一に問いかける。
「うん。何?」
「えぇ、ナントさんの納品クエストがまた始まったのよね? 今度の報酬は何になるか聞いてない?」
聞き逃せない事を言い出した要に、思わず食いしん坊たちの会話も途切れる。
「まだ聞いてないや。でも……そうか、また何か変な報酬が出てくる可能性があるんだ」
「えぇ。今度もまた運営側の予想外でしょうから、どんな報酬なのかが気にかかるのよ」
「前回の『鼓吹の鈴』は、運営側の判断で渡されたって事?」
「と言うか……ひょっとすると運営ではなくて、ゲームを統括しているメインAIの判断だった可能性もあるわね」
「え? SROって、そこまでAIの裁量権が大きいの?」
「えぇ。その辺もSROにおける検証テーマだって言う話を聞いた事があるのよ」
「へぇ~……だとすると、今度はどんな報酬になるんだろうね」
運営の気力と精神力をガリガリ削るような発言をする蒐一たちであった。




