第七十六章 篠ノ目学園高校 5.放課後(その3.従魔(シル)と召喚獣(マハラ))
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案の定何も考えてなさそうな蒐一を見て、要は微苦笑を浮かべると、噛んで含めるように説明を始める。
「最初に確認しておきたいんだけど……昨日、蒐君が町へ戻った時、デスヘッドは出したままだったのかしら?」
「まさか。そんな事したら、僕が【召喚術】を持ってる事がばれちゃうじゃん。ちゃあんと懐の中に隠していたよ」
送還という発想は出なかったらしい蒐一であるが、一応最低限の用心はしていたようだ。
「だったら、最悪の事態だけは避けられたようね」
「要ちゃん……僕を何だと思ってるのさ」
「ご免なさいね、一応確認しておくべきだったから。それで蒐君、事態が何も好転していないのには気付いてる?」
「……え?」
あぁやっぱりかと一つ溜息を吐いて、問題の本質を指摘する要。
「いい? 問題は、蒐君が使役獣の事をカミングアウトした場合の事なの。従魔と召喚獣の両方を使役してるって、どういう意味か解るわよね?」
「あ……」
駆け出しE級――ただし種族レベルは既に9――の冒険者が【従魔術】と【召喚術】の両方を取得しているという特殊性について、ようやく認識を改める蒐一。さては昨日バランドとナントが頭を抱えていたのは、ズートの素材以外にこちらも原因であったのか。
「か、隠しておけば……」
「ねぇねぇ蒐君、そろそろシルちゃん御目見得だって言ってなかった?」
「う……」
「デスヘッドの事を隠しておくってのもお勧めしねぇぞ? 召喚獣ってやつは、必要な時必要な場所で召喚できてこそだろうが。それができないってんなら、【召喚術】を取得した意味が無いし、デスヘッドだって不本意じゃねぇのか?」
「うう……」
「ついでに言っておくと、召喚獣は召喚している時間が長いほど、その成長が促進されるのよね」
「ううう……」
「付け加えると、負傷したり消耗した召喚獣は、送還する事で効率的な回復が見込めるの。ずっと出しっぱなしにして従魔のふりをさせるのも、限度があるわよ?」
「うううう……」
立て続けの十字砲火を喰らって沈黙を強いられる蒐一。〝八方塞がり〟とか〝進退窮まる〟とかの単語が脳裏に踊る。
「まぁ、どうにか誤魔化そうと言うのなら……」
「何かあるの!? 要ちゃん!」
夜道に灯りを見つけたかのように食い付く蒐一。切羽詰まったその様子に微苦笑を浮かべながら、
「次善というより三善程度の策だけど……シルちゃんを召喚獣だって強弁する手はあるわね」
「あぁ、成る程……」
「それが一番無難かもな……」
負傷や消耗した場合に送還しないのかと疑われる可能性はあるが、現状誰より被弾する可能性が少ないのもシルである。何しろ【力場障壁】という固有スキルを持っているのだ。しかもレベルは6。ギャンビットグリズリーの攻撃ぐらいなら鼻で嗤ってあしらえるし、ナンの町のエリアボスである死刑宣告者の攻撃すら数発なら耐える事ができる。一流どころの壁役と較べても遜色無い防禦を誇るのである。
「う~ん……」
シルの素性をこれ以上偽るのに抵抗を感じる蒐一であったが、どのみちシルが幻獣だという事は秘匿しておく必要がある。なら、偽装の一環として召喚獣だと偽るのもありではないのか?
「どちらにしても、デスヘッド……マハラちゃんの事はしばらく伏せておくのがお勧めね。目の前にいるモンスターと『召喚契約』を結ぶ事ができるなんていうのは、事情の特殊性を考慮しても、あまり触れ回らない方が良いと思うし」
要の忠告に一々納得せざるを得ない蒐一。ここはその方針を採用した方が良いだろうと決める。胆を固めたところで、
「でも、そうか……マハラの成長の事も考えないといけないんだ。ズートの葉だけに頼るというのも拙いよね……」
――と、軽率にも呟いたのが、次なる喚問の引き金となった。




