第七十六章 篠ノ目学園高校 4.放課後(その2.召喚獣マハラ)
東のフィールドで無双したという報告は――モノコーンベアとバイコーンベアの混群というのはともかく――シュウイにとっては日常だろうとスルーされたが、その後で傷付いたデスヘッドの幼虫を従魔化したという話は、少なからず幼馴染みたちを驚かせた。それでも、傷付いたモンスターを救うために躊躇う事無く召喚契約を結んだという話は、ある種の美談として受け止められたらしい……匠にとっては。
「……残念ながら匠君、これはそんなに単純な話じゃないのよ?」
そう要に言われて、男子二人は首を傾げる。モンスターの負傷を癒すのに、【召喚術】の方が有効そうだったから召喚契約を結んだ。どこに不審な点があるというのだ?
「大ありだよ~」
「さっき私が話した事は憶えてるでしょう?」
「……掲示板の話?」
「えぇそう。いい、蒐君? 運営が最初に公表した情報では、召喚は過去に倒したモンスターのリスト……所謂召喚リストに載っているものの中から選べる――という事になっていたの」
「……うん」
以前に合った使役術師の二人組、メイとニアがそんな事を言っていた気がする。
「つまり、運営情報を鵜呑みにした場合、召喚前に多くのモンスターを倒しておく方が良い……そう考えられていた訳ね」
「うん」
頗る妥当な判断である。蒐一が当事者であってもそう考えただろう……この情報だけで判断したのなら。
「けれど初回の召喚時に限って、召喚リストに載っていないモンスターが召喚されるケースがちらほら出てくるようになって、それがどういう事なのかって、召喚術師を中心に検証が進んでいる……ここまではいい?」
「……うん」
「で、イレギュラーな召喚の理由として、召喚前の行動が何らかの鍵になっているんじゃないかって話が出てきている……これはさっきも話したわよね?」
「うん」
そこまでは解る。と同時に、蒐一ことシュウイがそれに何の関わりも持っていない事も誰より解る。何しろシュウイにとってモンスターは狩りの対象、どれほどの数を屠ってきたか判らないほどだ。好意など持たれている筈が無い。
訝しげな表情で要を見る蒐一に苦笑を返すと、要は噛んで含めるように問題点を指摘した。
「問題なのはね、蒐君。召喚を試みた誰一人として、特定の個体を召喚しようなんて考えていた人はいないって事よ」
「……え?」
「目の前にいるモンスターに対して召喚契約を持ち出すなんて事をしたのは、多分だけど蒐君だけよ」
目をパチクリとさせながら、昨日の自分の行動を思い返す蒐一。……あの時は、ただ負傷の治療に有効かどうかだけを考えて……
「……そんな事、考えもしなかったよ……」
「普通はこういうシチュエーションだと、迷う事無く【従魔術】を試すものなのよ?」
「……そっちは正しく治療できるかどうか判らなかったから……」
「ポーションを使った場合の事故を懸念したのよね? でも、さすがにそんな真似をしたら、従魔術師のプレイヤーたちが総決起すると思うわよ?」
「虫さんをプッシュしてる従魔術師さんたちって、意外と多いよ?」
言われてみればそのとおりである。いくらここの運営が鬼畜だと言っても、従魔契約そのものを妨害するような挙に出るとは思えない。これはシュウイの考え過ぎであったろう。
「まぁ、そのお蔭で新たなケースデータが入手できた訳なんだけど……これって、報告していいものなのかしらね?」
本来なら重要な知識として使役職プレイヤーたちに還元すべきであろう。しかし、あまりに特異なケースゆえに、下手をするとシュウイの事が露見する虞がある。
「……要ちゃんが重要な情報だと思うんなら書き込んでもらっても構わないけど……正直、身バレは嬉しくないなぁ……」
「……そうね。これについてはもう少し様子を見ましょう。書き込むとしても、身許を特定できるような情報は与えないようにしておくわ」
「うん、それでいいや。宜しく」
「……おぃ待て。肝心の……蒐のケースの解釈はどうなるんだよ?」
「あら? 仮説に反するものではないわよ? 蒐君が自分を助けようとしたその事に対して、デスヘッドが感謝と好意を抱いたという事じゃないの?」
「あ……そういう事なのか……?」
「生き延びるために一も二も無く召喚契約を受け容れた――という解釈もできるけど?」
「……身も蓋も無い説明だな」
「本質的には同じ事よ」
蒐一から聞いた話だけで、運営管理室の面々と同じ結論に至った要。優秀であるのは間違い無い。
「それよりも……蒐君、新たな問題が発生しそうなのには気付いてる?」
「へ?」




