第七十六章 篠ノ目学園高校 1.昼休み(その1)
「え? 何とかいう村を開放したのって、匠だったのか?」
昼休み、珍しくも相談したい事があると言い出した匠からのカミングアウトに目を丸くする蒐一と茜。対して要は予想の範囲内であったらしく、そこまで驚いてはいないようだ。
「リャンメンの村、な。あぁ、俺たち『マックス』が解放した。まだクエストが続いてっから、詳しい事は言えないけどな」
「あぁ、秘密クエだとか言ってたっけ」
「そういう事……いや? もう話してもいいのか?」
秘密にするのは逃亡犯の捕縛に影響する虞があったからで、無事捕縛した今となっては秘密にしておく理由は無いのでは? 今になってその事に気付いた匠であるが、本当に話していいものかどうかが判らない。パーティメンバーとも相談していないため、自分の一存で明かすのも躊躇われる。
「……とりあえずは必要な事だけ話してくれればいいんじゃないかしら。それとも、相談したい事に関わってくるの?」
「あ~……いや……多分、関係無いわ」
匠が相談したいのは、昨日メンバーとの会話の中で浮かび上がってきた二つの問題、すなわち、フクロウの件とリャンメンの村に何かある可能性についてであった。
・・・・・・・・
「フクロウねぇ……」
「私たちはまだ契約自体を済ませていないし、今のところはあまり役に立てそうにないわね」
「あれ? 要ちゃんたち、まだ契約してないんだ?」
「えぇ。けど、その事は後にしましょう」
脱線しそうになるところを要に窘められ、意識をフクロウの問題に切り替える蒐一。確かに、今は匠からの相談が先だ。
「けどさ、僕もフクロウに出会った事は無いよ?」
「フクロウはともかく、従魔を避けるような反応をする住人とかに心当たりは無いか?」
「う~ん……シルの事はまだ秘密にしてるし……バランド師匠は別に気にしていないみたいだったけど……」
他の従魔は――と考えたところで、メイとニア以外の使役術師に会った事が無い事に気付く。その二人との会話を思い返してみても、匠が言うような反応が話題に上った記憶は無い。……いや……厳密に言えば、メイとニアのウルフがシュウイから隠れるような行動を見せていたが……あれは関係無い筈だ……多分……。
「……私たちも聞いた憶えは無いわね。バーバラ師匠から色々と教わりはしたんだけど」
「だったら、一般的な反応じゃないって事になるのかな?」
「問題は、『特殊』なのがその脱走犯なのか、それともフクロウの方なのか――って事よね……」
「でもさ要ちゃん、他の住人はフクロウに妙な反応は見せなかったんだろ? だったら、おかしいのは犯人の方で決まりじゃん?」
「大筋では蒐君の言うとおりだと思うけど、気になるのはその条件なのよ。脱走犯一人だけの反応なのか、それとも、ある条件を満たしたNPCなら同じ反応を示すのか……」
「……そして、その反応は全てのフクロウに対してなのか、それとも、従魔になったそのフクロウだけに対してなのか――って事?」
「えぇ。話を聞いた限りだと、少し変わったフクロウみたいだから」
「あぁ……そう言えば……」
「確かに……」
何しろプレイヤーのログイン早々に召喚を要求するようなフクロウである。他と変わっている可能性は無視できない。
「【魔獣鑑定】はやってみたんだろ、その人。何も表示されなかったのか?」
「あぁ、別におかしなところは無かったそうだ。……お前みたいに特殊な【鑑定】じゃないけどな」
使役系の三アーツを全て獲得した蒐一の【魔獣鑑定】は、【魔獣鑑定Tri】になっている。【従魔術】と【召喚術】だけの頃は【魔獣鑑定W】だったのだが、【死霊術】まで獲得した挙げ句にそれらが【使役術】に統合されてからは、トリプルの添え字が付くようになった。
「……その魔術師の人は【召喚術】で使役しているわけだし、他の使役アーツが必要だとは思えないわね。【魔獣鑑定】のレベルが関与している可能性は否定できないけど」
「あ~……一応伝えとくわ。蒐、【魔獣鑑定】のレベルって、どうやったら上がるんだ?」
「え? 普通にモンスターを鑑定してれば上がるじゃん?」
「……いえ……普通は蒐君みたいにモンスターに遭遇しないから……」
「あ~……蒐はバトルジャンキーならぬハントジャンキーみたいなところがあるからなぁ……」
「おぃ匠、なんて事言うんだよ!」




