第七十五章 イーファンの町~「ワイルドフラワー」~ 3.事案発生(その3)
冷徹かつ無情に付け加えられたミモザの一言に、無言の悲鳴を上げる三人。
「ワイルドフラワー」の面々は誰一人として死霊術を持っていないし、仮に持っていたとしてもゾンビやスケルトンなどと契約は交わしたくない。
「い、急がないと――」
「……でもさリーダー、今までに出てきたモンスって、食指が動かないのばかりだったじゃない?」
ジトっとした目で事実を指摘したのはサフランという少女。召喚獣を持たない召喚術師である。
彼女の言うとおり、お使いの途中で遭遇したモンスターは……
「ほとんどゴブリンばっかりだったよね……」
「そうじゃないのも少しはいたけど……」
「他に出たのって、ワームとかスキップジャックヴァイパーとかトカゲとかギガントキャンサーとかだったじゃん」
「いくら使役獣でも……ちょっとねぇ」
魔法職のパーティとはいえ、「ワイルドフラワー」は平均的な感性の女性で構成されている訳だから、パーティメンバーから駄目出しされるような従魔は持てない。ゆえに、これまで遭遇したモンスターは従魔候補から弾かれてしまうのである。
ミモザはツチノコとカニに少し未練があったようだが……
「……こうなると、召喚術師が頼り?」
「いやいやリーダー。前にも言ったけど、あのラインナップを見て、その上でここで初召喚をしろっていうのは、それはもうパワハラだから」
「あの時とは事情が違うでしょ。サモナー板で新説が上がってたじゃない」
「まだ仮説の段階。運営も何一つ情報を明かしてない」
「仮に正しいとしても、あたしらがそのケースに該当するかどうかって、不確定じゃない。そんな賭はしたくないしさぁ……」
彼女たちが言っている〝仮説〟というのは、少し前に召喚術師向け掲示板で提案され、あっという間に拡散した仮説の事である。
契機となったのは「マックス」の魔術師マギルがルヴァを召喚したケースであった。討伐した憶えの無いフクロウが、しかも最初から妙に懐いた状態で召喚されたという事実から、最初の召喚獣について以下のような可能性が指摘されたのである。
①何らかの条件を満たしていれば、召喚リストに表示されていないモンスターが初召喚時に召喚される事がある。謂わば、一種の割り込みである。
②「割り込んで」召喚された召喚獣は、往々にして主人への好感度が高い。
③割り込みの原因として、召喚前に同種あるいは同一個体のモンスターの好感度が高くなっている事が考えられる。好感度が上がる原因としては、餌付けなどが考えられる。
確かに現時点では仮説でしかないとは言え、少なくともマギルのケースについては遺漏無く説明できている上に、「餌付け」という行動によって検証する事が可能である。第二陣参入という時機にも合っていたためか、野生のモンスターに対して不必要に敵対的な行動を取らず、寧ろ餌付けを試みる者が多くみられるようになっていた。
――そこで話を戻して、「ワイルドフラワー」である。
前にも言ったが、彼女たちは基本的に採集や魔道具作成で稼いでおり、討伐依頼を受ける事は少ない。偶に襲ってくるモンスターは、センが嬉々として相手をしているが、これとて本人的には鬼ごっこに近い。
……言い換えると、モンスターの恨みはそれほど――それなりに多くのモンスターを斃してはきたが、それでも他の攻略チームに較べると少ない筈――買っていない筈。ゆえに、この場で初召喚を試みても、好意的なモンスターが召喚される可能性は高いのではないか――と、いうのがエリンの言い分であり、
「いやいやリーダー、恨みを買っていないのと、好感を持たれているのは別だから」
「好感を持って召喚に応じてくれた相手が、一般受けしないモンスターという可能性も無視できない。好意的なゲジゲジとかナメクジが召喚された場合、リーダーたちはそれを容認してくれる?」
「う……」
斯くして、魔法少女パーティ「ワイルドフラワー」は、この日も従魔を得る事無く一日を終えたのであった。
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夕闇に覆われた森の中、野営する「ワイルドフラワー」を密かに見つめる影があった。虚ろな眼窩で彼女たちを眺めていたそれは、微かに笑うと闇の中へ姿を消した。




