第七十五章 イーファンの町~「ワイルドフラワー」~ 1.事案発生(その1)
フィールドでどうにか一夜を過ごした「ワイルドフラワー」の面々は、携帯食料で味気無い朝食を終えた後で、本日の予定について話し合った。
「……町の状況と我々の目的に鑑み、少なくとも今日一日は山を下りない方が良いと思う」
「賛成――と、言いたいところだけど……」
「……問題は食事よね……」
「一応、携帯食料は足りる筈だけど……」
「このゲーム、携帯食料がとことん不味いんだよね……」
「多分だけど、プレイヤーの奮起を促してるんでしょうね」
「生産職の? けど、料理人プレイヤーって、そんなに多くないよね?」
「この際、錬金術師でもいいと思う……」
「生産職でなくても、リアルで料理スキルを持ってたら、何とかなるんじゃない?」
「現実逃避は止めよう……」
憮然としたエリンの声に、ピタリと会話が途切れる。
「堪えられるのは今日一日が限度。何が何でも、今日中に従魔の手配を済ませる」
「……だね」
「……うん……それしかないよね……」
斯くして、SROでその名を知られた魔法少女パーティ「ワイルドフラワー」の、涙ぐましい目標と予定が決められたのであった。
・・・・・・・・
「……何かおかしくないか?」
「……おかしいのは判る。ただ、何がどうなってるのかが判らない」
エリンとミモザの憮然とした遣り取りに、黙って頷く残りの三人。何しろまだ昼過ぎだというのに、立て続けに妙なクエスト――クエストだよな?――に巻き込まれているのだ。
「最初は腰抜けの婆ちゃんだったよな」
「腰抜けって……」
「正しくはぎっくり腰」
「こんな山の中でぎっくり腰なんて、結構洒落にならないよね……」
山径を歩いているとぎっくり腰の老婆――薪を取りに来ていたらしい――に遭遇し、家へ送り届けるという流れになったのであったが……
「あからさまに怪しい一軒家だったけど……」
「あたし、山姥の住み処かと思った」
「セン……一応クエストの説明にあったろ?」
老婆が実はモンスターだった――などという定番の展開は無く、きっちり自宅へ送り届けたところ、老婆の孫という女性に紹介された。これだけなら取り立てて問題にするところは無い。それが問題になったのは、件の女性が従魔術師であったのと……
「……クエストで辿り着いた先に従魔術師のNPCがいて、期待が高まってきた矢先に――」
「《条件を満たしていません。サブルートに入ります》って出たもんね……」
拍子抜けの展開に一同狐に抓まれたような心境であったが、何事も無かったように話は進み、なぜか他所の住人への届け物を頼まれる事になった。
教わったとおりの山径を辿って教わったとおりの家に着いたところ、届け先の人物がまたしても使役職だったのには驚いた。使役職の住人ってそんなに多かったか?――という疑問を抱いたのも束の間、またしても眼前に半透明のウィンドウが出現し、
《条件を満たしていません。サブルートに入ります》
――以下、同じような展開が延々繰り返される事になったのである。
「……同じような展開が五件も続いたっていうのは……」
「さすがにおかしいよね……」
「と言うか、抑同じような展開が繰り返されるのが変」
「確かに」
「今まで無かったパターンだよね、これ?」
こういう場合に何かしらの解釈を提出するのはカナの役目――という訳ではないのだが、それでも期待はされているらしく、四人の視線が集中する。カナとしても苦笑を禁じ得ないが、一応考えた事を述べる事にした。




