第七十四章 追捕クエスト第二幕~「マックス」~ 1.墓の主からの情報
「お……すまんがちょいと待ってくれ」
パーティメンバーに一言断って道の脇に寄った斥候役に、訝しげな視線を向ける「マックス」の面々。何かヒントになりそうなものを見つけたのか?
だが、案に相違してバリスがとった行動は、道の脇に転がっていた石を起こして綺麗にする事だった。
「……ひょっとして、墓石か何かか?」
「あぁ、死霊術を取ったからって訳じゃねぇが、こういうのを放っておいたんじゃ仏さんが不憫だからな」
「あぁ、落語の『野晒し』みたいな例もありそうだしな」
「落語?」
「あぁ、河原の白骨死体を弔ってやったら、その晩に幽霊がお礼に来るという……」
「若い女の幽霊だったっけな」
「あぁ、あなめあなめーってやつか?」
「……ちょっと……違うんじゃないか……?」
「そっちは小野小町だろう……だったよな……?」
「そうだったと思うが……俺も日本史は得意じゃないからなぁ」
「日本史なのか?」
「どっちかって言うと古文なんじゃ……?」
「おぃ……冗談から駒みたいだぞ」
壁役の呟きに一同が視線を巡らせると、そこには墓石を前に硬直したように佇むバリスの姿。
ややあって復活したバリスの語るところに拠れば……
「抜け道?」
「ってぇか、裏道だな。お目当ての男が隠れてるって家に続いてるが、もう何年も使われてねぇとかで、家の側からもそうとは気付かれねぇだろうって話だ」
「そんな事まで知ってるって事は……」
「あぁ。前の住人が飼ってた……てぇか、時々餌をやってた猫らしい。墓を建ててくれたのもその住人らしくてな。引っ越して空き家になった後も、時々遊びに行ってたそうだ」
墓を作ってくれた住人が引っ越した後という事は、言葉を換えて言えば、墓の主が死んだ後――という事である。どうやら、幽霊になった後もちょくちょくこの辺りを彷徨いていたらしい。
「……けど、そのお蔭で、お目当ての男がそこに隠れてるって事が判った訳だ……」
「いや……これ、正規のルートじゃないだろう? 大丈夫なのか?」
「だが、悩んでいる暇も無さそうだぞ? 猫の話じゃ、高飛びするとかどうとか言ってたんだろう」
とてもじゃないが正規のルートとは考えられないから、できれば裏を取っておきたい。けれど、猫の話が本当なら、日暮れとともに逃げ出す気配が濃厚である。裏など取っている暇は無いし、万一こちらの動きを気取られでもしたら、即座に逃亡する虞がある。
「……多分だが、一応は運営の想定したルートに乗っていると思う」
考えながら発言したのは壁役のバルトであった。全員の視線が集まる中、
「ターゲットが逃げ出す云々というのは、イベントが既定の方針に従って動いているという事なんじゃないか? クエスト受注者がターゲットの所在を確認した時点で明かされる情報なんだろう」
「……ダミーの可能性は?」
「無いとは言えない。しかし、もしもこれがダミーなら、どこかにそれを示す手掛かりがある筈だ。ここまでにそれらしきヒントは無かった」
う~むと考え込む一同であったが、
「……動くんなら早く動いた方が良かないか? 万一ダミーだった場合、少しでもやり直しの余裕が欲しい」
というサントの主張が通り、一同は裏道を抜けて接近する事にした。
重要な情報を教えてくれた猫の墓に、うち揃ってきちんと手を合わせた後で。




