第七十三章 トンの町 10.運営管理室再び(その2)
「中嶌?」
「……何が言いたい?」
嫌な予感と既視感を覚えつつも、中嶌の発言に耳を傾けようとするスタッフたち。しかし、彼が放って寄越したのは、管理室の面々にとっても結構な爆弾であった。
「……ウォーキングフォートレスの幼体が成長すると、身体のサイズも大きくなりますが、それ以上にバリアーの範囲が拡大するのはご存知ですね?」
「あぁ。ガードの対象が個人からパーティに拡大するんだろ?」
「パーティ単位のガードとなると、戦闘中はメンバーがあちこちに飛び回るから、各パーティメンバーにバリアーを張り付ける事になるわけだよな?」
「はい。……それで、あの幼体……『シル』ですが……先日の特訓の時のログを見直していたら……モックというプレイヤーの前にバリアーを張っていました」
……その意味がスタッフに理解されるまで、十秒ほどの時間が必要であった。
「ちょっと待て中嶌! あの幻獣は、幼体なのに、既に離れた位置にバリアーを現出させる事ができている――そう言いたいのか!?」
「……はい」
「馬鹿な……幻獣は普通の従魔よりも成長が遅い筈だろう……」
「……いや待て……一言、従魔の好感度は手をかけてもらった分だけ上がる――この前そんな事を言っていたな?」
「あ、はい~」
「上がるのは好感度だけか?」
木檜の問いかけに事情を理解し、そして――一気に青ざめるスタッフたち。あのトリックスターの少年は、毎晩のように幻獣に果実水を作ってやっていた。それが従魔としての成長を底上げしているとすると……?
「え~とぉ……一応それとなく聞いてみたんですけどぉ……先輩、笑って教えてくれなかったんですよぉ」
――だったら、間違い無く成長促進の隠し効果がある筈だ。
「モフモフの魔女」こと戀水女史の性格を知る、スタッフたちの思いは一致していた。
「……幻獣以外の使役獣はどうなのかも気になるが……」
「今はあの幻獣だけで充分だ。――中嶌! 何で今まで気付かなかった!?」
「いや……寧ろ、なぜ今になって気付いた?」
「あの……デスヘッドの件で成虫のステータスを確認していて……そのついでにウォーキングフォートレスについての箇所も覗いてみたんです。今まで注意して見なかったのは、ウォーキングフォートレスが成体になるのはもう少し先だと思っていたので……」
中嶌の弁明に唸るしか無いスタッフたち。この点では自分たちも同罪だ。
「……ウォーキングフォートレスの成長について、早めに知る事ができたのは僥倖だった。そう思っておこう」
今日一日でげっそりと老け込んだ気がするが、ともかくこれでこの件は終わりだろう。……いや……終わりであってくれ。
そういう願いも虚しく、町へ戻ったシュウイは無邪気に爆弾を撒き散らした。
「……ズートの種子クエスト……プレイヤーどころか、住人まで巻き込んでくれたか……」
「……どうなるんだ? これ」
「……このクエストの報酬って……住人も対象に入るのか?」
宿屋へ戻ったら戻ったで、
「……ズートの葉、亀の食い付きが良くないのはなぜだ?」
ズートの葉にはモンスターや使役獣の能力を向上させる効果があるという事なので、無条件に好むと思っていたのだが――子亀の反応を見る限りでは、そういうわけでもないようだ。
「……味が好みでなかったのでは?」
「そんなパラメーターまで設定してあるのか? ……幻獣だけなのか?」
「モフモフ班の意気込みが凄かったようですから……」
「けど……あの幼虫、間違い無く実よりも皮の方に食い付いてるぞ?」
「……幻獣だけじゃないって事かよ……」
「木檜さん……」
「……解った。この件については、俺が戀水をとっちめて白状させておく」
盛り沢山な一日を終えて、どっと疲れた様子のスタッフたちであった。




