第五十九章 トンの町 2.バランド薬剤店
「師匠~、お早うございま~す」
明るい声と共にバランド薬剤店の扉を開いたのはシュウイである。
「ふむ……その様子では、首尾良く【調薬(邪道)】の初級が取れたようじゃな」
「はい! 【調薬(邪道)】も【錬金術(邪道)】も、やっと『仮免許』表示が取れました」
「見習いを脱したという事じゃな? 結構々々。それでは約束どおり、初級の体力回復ポーションと魔力回復ポーションの作り方を教えてやろう」
「お願いします!」
・・・・・・・・
「ふむ。どうにか形になったようじゃな。コツさえ掴めば、そう難しいものではないからの」
「コツさえ掴めばって……そのコツを掴むのが難しいんですけど……」
「そこは練習あるのみじゃな」
バランドの指導の宜しきを得て、初級の体力回復ポーションと魔力回復ポーションの作り方をどうにか習得したシュウイではあったが……
「……作り方が物凄く似てるんですけど。下手をすると……って言うか、下手をしなくても間違えそうな気が……」
「ま、薬師なら誰もが通る道じゃ」
「……何でこんなに似てるんですか?」
「体力回復ポーションの作り方を魔力回復ポーションに応用したのが始まりじゃからな。作り方が似ておるのは当然じゃ。抑は中級で教える魔力回復ポーションを、初級の技術でも作れるように工夫したものじゃしな」
「え、そうなんですか?」
「うむ。じゃからして、儂ら上級の者は別の方法で作っておる。……間違えようのない方法でな」
まぁ、できあがりの品質も違うんじゃが、と言ってバランドが教えてくれた方法は、今のシュウイには逆立ちしても無理なものであった。
「……あれ? だったら師匠、同じポーションでも、複数の作り方があるって事ですか?」
「当然じゃ。材料の幾つかが手に入らぬ時、それでもポーションを作らねばならぬのが薬師じゃぞ? 代わりの方法など幾らでもあるし、それらを悉く使いこなしてこそ一人前じゃ」
うへぇ……大変そうだなぁ……
「大体、お主の邪道スキル自体がそういうもんじゃろうが。レシピの一つぐらい覚えておらんのか」
言われてシュウイがステータスを開き、【調薬(邪道)】初級と書いてある部分をタップすると……
「……師匠……体力回復ポーションと魔力回復ポーションの作り方が増えてます……教わった方法の他に、(邪道)って書いてある方法が……」
「ほぉ……そういう事になっておるのか」
「……これって、つまり……」
「うむ。お主が精進してレシピを覚えるほど、邪道スキルのレシピも増えていくという仕組みじゃろうな」
「つまり……二倍の効率で学習が進むって事ですよね?」
「そういう事じゃ。修行が進むほどに新たな知識を覚える……中々に洒落た加護ではないか」
「はい!」
――という具合に、実に前向きに事態を評価する師弟二人。どこかのネガティブ集団に聞かせてやりたい発言である。
「う~ん……そうすると、【調薬(邪道)】か【錬金術(邪道)】で臭いを抜くのは、現状では難しいかなぁ……」
ブツブツと呟いているシュウイを見て、何やら不審と胸騒ぎを覚えたのか、バランドが問いかける。何を悩んでいるのかと。
「あ、師匠。師匠はマンゴスタってご存じですよね?」
「無論知っておるが? 一度ならず食した事もある」
「あ、だったら、マンゴスタの臭いを抜く方法って、ご存じないですか?」
「臭い抜きじゃと? ……以前にそんな事をやった者がおったという話を聞いたような気はするが……少なくとも、儂は知らんな」
「う~ん……何かヒントになるような事はご存じないですか?」
「さぁてのぅ……【分離】スキルを使ったと聞いたような気もするが……どうも記憶がおぼろげじゃな」
「分離かぁ……試しにやってみようかな」
アイテムバッグからマンゴスタの実を取り出して、期待に輝くシルの視線をうけながら、いざ――と構えた途端に頭をはたかれた。
「馬鹿者! そんな代物をここで切ろうとするでない!」
結局、この後でフィールドに出るというシュウイにバランドも同行し、そこで実験する事になった。
「師匠、先にテムジンさんの工房に寄りたいんですけど?」
「毒を食らわば皿まで……いや、この際巻き込む者は多い方が良いじゃろう。構わんから、そのテムジンとかいう異邦人も巻き込むのじゃ」
「え~?」
師匠の意外な一面を見た気がするシュウイであった。
「ネガティブ集団」こと運営管理室の話は次話で。




