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第五十九章 トンの町 1.微睡みの欠片亭

 いつものようにログインしたシュウイが、これもいつものように朝食を摂って、いつものように出かけようとしたところで気が付いた。



「あ……今日はシルにマンゴスタの実を食べさせなきゃいけないんだっけ……」



 ちらりと懐のシルに視線を落とすと、期待に輝く目でシュウイを見つめている。



「……ここで切る訳にはいかないから、フィールドで試すしかないんだよね……いや、そう言えば夕べ……」



 ――錬金術で悪臭を抜けないだろうか。

 そう考えていた事を思い出す。



「う~ん……これってスーファンの宿場町で買ったものだしなぁ……現在そこまで進んでいるプレイヤーはいないだろうし……掲示板とかを見ても参考にならないよね」



 (むし)ろ、()(かつ)な書き込みをすれば墓穴を掘りかねない。いや、掲示板が炎上するなら、火刑台を築くの方が(たと)えとして適切か。



「という事は……相談すべきはバランド師匠か」



 これで今日の日程は決まった……と思ったところで、バランドから与えられた課題の事を思い出す。



「あ……【調薬(邪道) 初級】を取っておかなきゃ(まず)いんだっけ……」



 別に(まず)くはないが、昨日大見得を切った手前、修得もせずに質問に行くのはきまりが悪い。しかも、質問の内容は、スキル取得とは関係の無い臭い抜きである。残念そうな視線を向けられるのは確定だろう。

 何より、晴れて【調薬(邪道) 初級】を取りさえすれば、バランドから初級の体力回復ポーションと魔力回復ポーションの作り方を教えてもらえるのだ。しかも、クリアすべき課題はあと一つだけ。

 ならばさっさと課題をこなして、【調薬(邪道) 初級】を取得するにこした事は無い。



「御免、シル、少し待ってくれる?」



 そう(たず)ねると、シルは仕方がないというように(うなず)いた。良くできた従魔である。



「え~と……あとクリアすべきなのは……【抽出】だけか……」



 ならばいっその事、マンゴスタの悪臭物質を……と思いそうになったが、考えてみれば問題の悪臭物質が何なのか不明である。ここはできそうなものを手堅く選んでおく方が良いだろう。そうすると、手持ちの素材でできそうなのは……



「うん……昆布かな。旨味成分の抽出」



 ずっと前に買ったっきり、アイテムバッグの底に仕舞い込んでいた素材の事を思い出す。そろそろ使っても良い頃だ。



《選択された素材は昆布です。何を分離しますか?》



 意気込んでグルタミン酸と答えたシュウイであったが……



《初級スキルのため、旨味成分を種類別に抽出する事はできません》



 水を差された形のシュウイであったが、まぁ仕方がないかと先に進む。



《代表的な旨味成分三種と、それを多く含む食材について答えて下さい》



(え~と……グルタミン酸が昆布とか……あと、確かトマトにも多かったよな。で、イノシン酸が肉類で……グアニル酸がキノコ……で、良かったかな?)



 ブツブツと口の中で呟きながら、シュウイは答えを入力していく。



《課題をクリアーしました。【抽出(邪道) 初級 3/3】》


《【抽出(邪道) 初級】が解放されました。これ以後、初級スキルの範囲内で条件無く【抽出(邪道)】を実行できます。反復使用によって経験値が貯まり、経験を積むほど品質の高い生成物が得られるようになります》


《【錬金術(邪道)】および【調薬(邪道)】初級の課題スキルを全てクリアーしました。【錬金術(邪道)】および【調薬(邪道)】初級が解放されました。以後は【錬金術(邪道)】および【調薬(邪道)】それぞれの初級での作製を制限無く行なう事ができます》


《【錬金術(邪道)】および【調薬(邪道)】中級の受験資格を獲得しました》



 表示を確かめてみると、どちらのアーツも(仮免許)の文字が消えている。最初に【錬金術(邪道)】と【調薬(邪道)】を拾得してから半月余り、シュウイはようやくにしてそれぞれの初級を獲得したのであった。

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