第五十八章 篠ノ目学園高校(月曜日) 3.放課後
「へぇ……そっちはそんな事になってたのかよ……」
「えぇ、魔力操作の特訓を延々と、ね」
「んで? 成果はあったのか?」
「何とかね。メンバーのうち二人が【魔力操作】のスキルを拾ったわ。最初に拾ったのは茜ちゃんよ」
「えっへん!」
「ポイントを払わずにか?」
「えぇ」
SROでスキルを得る方法としては、ポイントと引き替えに取得する、スキルオーブを使用する、偶然に拾う……というか押し付けられる――SRO特有の取得法で微妙なスキルが多い――などが知られているが、その他に、該当する行動をひたすら繰り返すというものがある。例えば、素振りを繰り返していると剣術関連のスキルを拾ったりするのだが、必ずしも思いどおりのスキルが得られないのが難点であった。先の例で言うと、両手剣術の代わりに【農耕】というスキルを拾う者が続出――どうやら剣ではなく鍬を振るう仕草に似ていたらしい――して以来、この方法を採る者は減ってきている。片手剣術の代わりに【ルアーキャスティング】を拾うくらい、まだマシな方なのだろう。ともあれ――
「マジか……身体スキル以外でも、その方法が使えるのかよ……」
「その方法で魔法スキルを得た例って、初めてじゃなかったっけ?」
「そうみたいね」
蒐一の言うとおり、反復練習によって魔法スキルを拾得したケースは――βテストを含めて――これまでに報告されていない。この事が掲示板に報告されたら、またもや大騒ぎになるのが見えている。
「こりゃ、従魔板や死霊板に続いて、魔術板も大荒れだな……もう上げたのか?」
「まだよ。メンバー全員が拾得できるのか、検証しないといけないし、何より面倒に巻き込まれるのは嫌だしね。『マックス』がたまよ……いえ、協力してくれるなら別だけど」
「……今、弾除けって言おうとしなかったか?」
「いいえ? 空耳じゃないの?」
「……それはともかく、協力って何だ? 【魔力操作】なんか使えんぞ?」
「そっちはそっちで、新しいスキルを覚えそうなんでしょう? 蒐君が協力したって言ってたわよね?」
「あ~……確かに、リアルで蒐に教わった型が、SRO内ですぐ使えるようになってた。どういう補正がかかってるのか知らんが、覚えたての型がすぐ実戦に使えるのには驚いたな」
「それで、SRO内でお復習いした結果、リアルの方でも上達したりは? そういう報告もいくつかあるみたいだけど」
「……そっちはまだ確かめてないな。けど、あれって微々たるもんじゃなかったか?」
「リアルの方ではね。私が知りたいのはその次。リアルで再度お復習いしたら、SRO内での上達が加速したりしないのかしら?」
「……正直言って、考えた事も無かったな……」
「けどさ、要ちゃん、それって検証するのが難しくない? 弾除けにするには弱いんじゃないかな?」
「……おぃ、蒐……」
「あら? 正確にどうなのかはどうでも良いのよ。要は皆の注目を引いてくれて、こっちに火の粉が飛んで来さえしなければ良い訳だから」
「……そこまで言われて、素直に上げられるかよ……」
「けどさ、匠、黙っていたらそれはそれで、後々面倒じゃないか?」
退っ引きならない事態に落ち込んだ事を悟って突っ伏す匠であったが……
「ねぇねぇカナちゃん、だけど、それってあたしたちも同じじゃないの?」
という茜の台詞にむくりと顔を上げた。の・だ・が……
「そうね。でも、私たちより『マックス』が結果を出すのが先でしょう?」
先に匠が注意を引いてくれれば、後追いの形の自分たちへの砲火はその分軽くなる筈――と、しれっとして言うのを聞いて再び沈没する。
その様子を見ていた蒐一が、話題転換のつもりなのか、要に問いかける。
「……今更だけどさぁ、使役術に【魔力操作】って必要なの? 僕、初耳なんだけど」
そう言えば……という感じで、匠も再び顔を上げる。何せ「マックス」にも召喚術と死霊術を取った者がいる。この話、聞き逃す訳にはいかなかった。
「らしいわよ? 少なくとも師匠に言わせると」
要は師匠のバーバラ刀自から聞いた話を伝えていく。
曰く、召喚中に魔力が切れたら命取りである。
曰く、馴致するにしても、見込みのありそうな相手を選んで契約を持ち掛ける方が勝率が良い。そのためには、相手の魔力の量と質を見極めるのが肝要である。
曰く、召喚の場合も、相手の高感度が高いと契約が成立し易くなるだけでなく、契約した後も低コストで召喚に応じてくれるらしい。
聞かされた匠と蒐一も、初耳の情報に唖然の体である。
「マジかよ……あ、だったら、蒐の友誼称号は打って付けな訳か……」
と、呟いたところで、匠が余計な事に気付いてしまう。
「そういえば……蒐、『霊魂の友誼』って称号……」
「蒐君、お化けにモテモテ?」
「止めてよ!」




