第五十八章 篠ノ目学園高校(月曜日) 2.昼休み
「それで? 蒐、昨日は何をやらかしたんだ?」
屋上での昼食が一段落ついたタイミングで、開口一番に失敬な台詞を吐いたのは匠のやつだ。
「ご挨拶だな。僕だってそう毎回々々面倒に巻き込まれている訳じゃないぞ?」
「うんうん。で、何をやったの? 蒐君」
茜ちゃん……僕の話、聞いてた?
「何年の付き合いだと思ってるんだよ? 朝の時も妙に俺の話に食い付いて、話を逸らしたいって雰囲気が見え見えだったぞ?」
「こういうのって、何となく判るものよね」
「で、何をやったの? 蒐君」
みんな……僕の事を能く見てるんだね……。
事ここに至っては隠しおおせそうにないと判断したので、僕は素直に昨日の【迷子】の件を話す事にした。
「実は……昨日、スーファンの宿場に飛ばされてさぁ……」
「スーファン……? どこだ、それ?」
「イー、アル、サン、スーとくれば……四つ目の宿場の筈よね……」
「四つ目!?」
「おいコラ、ちょっと待て、蒐。どうやってそんなとこまで……」
「まさか……転移門を見つけたの?」
「「転移門!?」」
うん……みんな、ちょっと落ち着こうか。
「転移門なんか見つけてないってば。要ちゃんもあまり先走らないでよ」
「……ご免なさい……少し気が逸って……」
「けど、転移門じゃなけりゃ、どうやってそんなとこまで行ったんだよ?」
「飛ばされたって言ったじゃん。忘れたのか? 僕のスキル【迷子】の事?」
そう言ってやると、三人ともしばらくポカンとしていたけど、やがて納得したような表情になった。
「……そう言えば、あったな……そんなスキル……」
「すっかり忘れてたわね……」
「ねぇねぇ蒐君、【迷子】って、そんなとこまで飛ばされるの?」
違う……本来なら。
シュウイがスーファンの宿場まで飛ばされたのは、神か悪魔の悪戯と言えそうなレベルの偶然である。なので、
「さぁ……一応ログを見たんだけど、能く判んなかった」
無理もない。
「おい……蒐……」
「けど、何か珍しい事みたいだったよ」
「普通はそこまでの長距離移動は無いんでしょうね」
「さっすが蒐君!」
……どういう意味かな? 茜ちゃん。
「……まぁ、飛ばされた事はともかくとしてだ、そこで何をやらかしたんだ?」
おい……匠……
「蒐君ともあろう者が、ただ飛ばされただけで済ます筈が無いものね」
「うん!」
みんな……僕への評価が酷過ぎない?
・・・・・・・・
「へぇ~……そんなクエストがあったのかよ?
「うん。ナントさんが言うには、多分街道の開放クエストだったんじゃないかって……本来は、だけど」
「あぁ……蒐が【迷子】で乱入したから、開放にならなかったんだな」
「まぁ……そうよね。運営にしても、再現性のない突発事故での到達を、開放と見なす訳にはいかないでしょうし……」
要の意見には、当の蒐一も同意せざるを得ない。当事者であるが故に、自分が不条理な事をしでかしたという思いは強い。ただし、それが自身の望んだ事でない事も、自分は巻き込まれただけの被害者だという思いも同様に強いのである。……たとえ原因となったのが、シュウイのスキル【迷子】――断じて蒐一当人ではない――であったとしても。
「ねぇねぇ蒐君、それで、新しいスキル拾ったの?」
こういうところに勘の良い茜が、遠慮も会釈もなく核心を抉る。
「茜ちゃん、マナー違反よ」
「う~……でもぉ~……」
「うん。六つほど拾ったよ。けど、どんなスキルなのかは、まだ使ってないから判らないな。判ったら連絡するよ」
「……いきなり六つもかよ……」
「多分だけど……運営が到達者向けに用意しておいたスキルのうち、レアスキルを総浚えしたんでしょうね」
「運営の嘆きが聞こえてきそうだな……」
地味に蒐一のメンタルを抉る発言をかます匠に、蒐一はにやりと薄い嗤いを――密かに――浮かべると、何食わぬ顔をして三人に伝える。
「あ、そうだ。スーファンの宿場で美味しそうな果物を見つけたから、お土産に買ってあるよ。今度会う機会があったら渡すから」
「わ♪」
「あら、ありがとう、蒐君」
「おぉっ、悪いな、蒐」
「やだなぁ、友達だろ」
一見にこやかに笑い会う幼馴染みたち。……蒐一の笑いの質は、三人とは少々違っているようだが。
ともあれ、その日が来るのはもう少し先の事になりそうであった。




