第五十八章 篠ノ目学園高校(月曜日) 1.教室~LHR前~
「……何だか妙にご機嫌だな、匠」
鼻歌まじりに登校して来た匠を見て、蒐一は思わず声をかけた。
「お、蒐! お前に教わった十手術、マジで役に立ったわ」
上機嫌の匠が嬉しそうに話すのを聞いたところ、蒐一の十手術指南が功を奏したのか、指導員をすんでのところまで追い詰めたのだという。
「好い感じに感触は掴んだからな。次は一本ぐらい取れそうだ」
「……マジ?」
「マジ!」
「リアルでの体験がそんなにすぐに反映されるのか……凄いなSRO」
「あぁ。おれもちょっと驚いたわ」
そんな事を話している二人の周りを見ると、空いた席がちらほら見える。ゴールデンウィークの途中という事で、欠席して家族で行楽に出かけている生徒も多いようだ。
「蒐は明後日から休みなんだよな?」
「うん。和歌山の祖父ちゃんとこに行くからね。あ、そうだ。匠、聞きたい事があったんだけど……」
「あ? 何だ?」
蒐一の質問は、長期休みの間、SROでの活動はどうなるのかという点であった。宿代や依頼の事もあるし、従魔の食事などはどうするのか。シルは亀だから数日程度の断食は苦にしないだろうが、それでも食事抜きというのは可哀相だ。
「あぁ、その事か。従魔や召喚獣は、こう言っちゃなんだが、一種の備品扱いなんだ。ログインしない間は休眠状態になってるから、食事の事なんかは気にする必要は無い」
「あ、そうなんだ」
「注意しなきゃいけないのは宿代や依頼の方だな。こっちは手続きしておかなきゃ拙い。ログインしない間も宿代は発生するし、依頼は期間超過で失敗扱いになる。初心者がやりがちなミスだな」
「あ、そうなんだ……」
これは出る前に手続きをしておく必要があるなと、肝に銘じる蒐一。こういう時に持つべきは、βプレイヤーの友人だなと思っていたが……
「でか、ゴールデンウィークの前に、公式ホームページで注意してたろ?」
「そうなの?」
単なる不注意であった事が発覚する。普通のプレイができない蒐一は、公式ホームページなど見る事はとんと無くなっている。
「いや……こういう事もあるし、偶には覗いておけよ」
「……うん、そうする……」
偶にはホームページも覗くべきかと反省する蒐一。
「……匠たちはどうするんだ? 休みの間」
「あ~……うちはどこにも行かないけど、旅行に出るメンバーとかもいるしなぁ……。パーティとしての活動は中断だな。大人しく特設フィールドでレベル上げでもやっとくわ」
「特設フィールド?」
「あ~……そっちも知らなかったか」
匠の言うには、メンバーが旅行などでログインできないパーティ向けに、ゴールデンウィークの期間中だけレベル上げ用のフィールドが設けられるらしい。休んでいる者とあまり差がつかない程度のレベル上げができるそうだ。
「へぇ……茜ちゃんは沖縄って言ってたけど……要ちゃんたちもそこかな?」
「かもな。レベルじゃ蒐に置いてけぼり喰らってるし、今のうちに追い付けるよう気合い入れなきゃだしな」
「βプレイヤーが何言ってんだよ」
他愛無い話をしていると、やがてLHRが始まったので、二人は雑談を止めた。




