第五十七章 ナンの町 7.【魔力操作】
「マックス」の面々が【魔力察知】と【魔力操作】の重ね掛けについて話していた丁度その頃、ナンの町の一角で「使役者友の会」――正式名称「不遇な使役職のための集い」――の有志たちが会合を持っていた。
NPCの使役職――エリンが掲示板で曝露した――に会いたい使役職たちが、挙ってナンの町へ移動したため、現在ナンの町の使役職密度は空前の高まりを見せていたのである。
「……やはり確かなようだな」
「あぁ。【魔力操作】の有無が、使役系アーツのレベルアップに影響している――少なくとも、【従魔術】と【召喚術】ではそう考えて良いだろう」
「【死霊術】ではまだ情報が少ないが……」
「【死霊術】だけ別扱いにする理由が無い――と言うか、思い付かん。同じと考えて良いだろう」
序盤から不遇である事――鍵となるイベントをクリアーしない限り従魔が解放されない――を運営が公言していた事もあって、使役職たち――通称モフモフの使徒――はプレイヤーたちで一種のギルドのようなものを作り、さまざまな情報を共有していた。彼らの多くが攻略よりも従魔との触れ合いを重視していた事も、そのような情報共有と結束を可能にしていたが、これは他の魔法職にはあまり見られない特長であった。
そしてその特長の故に、彼ら使役職たちは【魔力操作】の重要性に気付く事ができたのであった。
「成長ペースは三種類の使役職間で揃えてある筈だよな?」
「あぁ、この点はβテストで指摘されて改良してある筈だ。運営的にも、使役系の三アーツ間で上達速度に差をつける理由が無い」
SROにおける使役アーツには――
・召喚術:コストも取得経験値も大。
・従魔術:コストも取得経験値も小。
・死霊術:従魔術に近いが、陽光の下では活動が鈍るなどのペナルティあり。
――という特徴がある。
これは、常に従魔を帯同する【従魔術】と、必要に応じて召喚獣を呼び出す【召喚術】との違いに基づく本質的なものであるため、その解消は無理であろうと考えられていた。なので運営としては、取得経験値の大きさを変える事で、不公平感を無くそうと努めていた。【死霊術】の陽光ペナルティに関しては、会話やクエストが発生し易いという補償措置を講じている事は、先に述べたとおりである。
「……まぁ、予想されていた事ではあるのだが……」
「【魔力操作】の説明にも、魔法の効率に影響すると書いてあったしな」
「……そうとしか書いてなかったがな……」
「愚痴るな。ここの運営が不親切――と言うか、鬼畜――なのは、今に始まった事じゃないだろう」
「あぁ。問題なのは、【魔力操作】の育て方が判らん――と言うか、抑レベルアップするスキルなのかどうかも判らん事だ」
「運営に訊ねても、〝公表できる情報は無い〟の一点張りだしなぁ……」
・・・・・・・・
「少しだけ……ほんの少しだけだが、【魔力操作】のレベルが上がっているようだ。属性魔法を使った時の効果が、予想より大きくなっている。……誤差に収まりそうな範囲ではあるのだがな」
「友の会」の面々が【魔力操作】の育て方に頭を悩ませていた頃、「マックス」の四人はナンの郊外のフィールドで重ね掛けの効果を検証していた。メンバー中で唯一【魔力察知】と【魔力操作】を保有していた魔術師のマギルが、検証の結果を他の三人に伝えていた。
「【魔力察知】と【魔力操作】を重ね掛けすると、【魔力操作】を鍛える事ができんのか……」
「バリスの勘は大当たりだったようだな」
「だが……これだと【魔力察知】を持たないプレイヤーは、【魔力操作】のスキルアップが難しいだろう」
「だな。あの運営がそんな手抜かりをする筈がない。きっと他にも方法がある筈だ」
と言うか、こちらは一種の裏技……と言うか横道的な方法であり、「ワイルドフラワー」の面々が指導を受けている方が正しく王道であるのだが。そして横道だけあって、バーバラの指導による訓練の効果には及ばないのであった。
そのため……
「どうする? 掲示板に情報を流すか?」
「いや……現時点では俺一人の、しかも多分に感覚的なものでしかない。情報として流すのは早いだろう」
「……と言うか、能く考えたら、スキルの重ね掛け自体、まだ公表していなかったよな」
「だな。……一応タクマとサントに相談した上で、『ワイルドフラワー』のお嬢さん方に確かめてもらうか」
「そうだな。……それに、他に同じような例が無いのかも気になる」
「あ?」
「何の事だ?」
「いや……【魔力察知】と【魔力操作】みたいな組み合わせ、他に無いのかなって思ってな」
「……確かに……」
「気になる話だな……」
・・・・・・・・
「ねぇねぇカナちゃん、何の連絡だったの?」
「えぇ……皆も聞いてくれる? たった今、『マックス』から連絡があって、【魔力察知】と【魔力操作】を重ね掛けすると、【魔力操作】が少しスキルアップするみたい。私たちに検証の依頼があったわ……内密にって条件で」
カナが投じた爆弾に、「ワイルドフラワー」の面々が騒然となる。使役アーツの上達には、いや、魔術一般の上達には【魔力操作】が必須であると言われて、現在進行形で特訓の真っ最中なのだ。耳を欹てたくなるのも道理である。
「……そういう重ね掛けはやってないなぁ……」
「盲点だったわね」
「みんな、【魔力察知】と【魔力操作】は持ってるよね?」
「当然!」
「最初は持ってなかったけど!」
「セン……一応あんたも魔法職なんだからさぁ……」
「マックス」、「ワイルドフラワー」、そして「使役者友の会」の奮闘によって、運営側が仕掛けた秘密が、少しずつ明らかにされようとしていた。




