第五十七章 ナンの町 4.「マックス」(その1)
ナンの町の外れで「ワイルドフラワー」の面々が魔力コントロールの修得に専念している頃、「マックス」のメンバーは何をしていたか?
弟子入りクエストの達成に邁進するタクマとサントの二人を除いた四人――斥候役の獣人パリス、壁役のバルト、魔術師のマギル、回復役のエルフの僧侶ウィリス――は、ナンの町の茶店でまったりと寛いでいた。
……とは言え、彼らも別にだらけている訳ではない。メンバーの二人が取得した使役系アーツの育成方針について相談しているところである。
「……便利そうだからと言われて取ったは良いが……これをどうするか……」
難しい顔付きで腕組みしているのは、召喚術を取得した魔術師のマギルである。彼の場合、召喚術以外にも育てるべき魔法がある。それらとのMPの割り振りをどうするかは、地味に頭の痛い問題であった。
「取ったばかりの召喚術はレベルが低くて使えんからな。当分はこれを育てるべきなんだろうが……」
「そうすると、他の魔法を育てる余裕が無くなる。つまりは先へ進むのが遅れる……って訳だ」
こちらも難しい顔で応じたのは、死霊術を取得した斥候のバリス。死霊術が斥候任務に役立つのはほぼ確実なだけに、できれば育てておきたいのが本音であるが、そのせいで攻略の足を引っ張るような事になれば本末転倒である。
「……リアフレが従魔術師でプレイしているから、簡単に話を聞いてみた」
考え込む二人に声をかけたのは壁役のバルト。どうせお前たちも情報は集めているんだろう、と続けた台詞に、他の三人が揃って頷く。
「一応、こちらの事情は伏せておいたが……恐らく察しているだろう」
「まぁ……後付け取得の件についちゃ、SRO全体に広まったみたいだからな……」
このままでは話が進まないと、各人が得た情報を総合してみる事にする。
「……知人の召喚術師に話を聞いたんだが……彼ら使役職プレイヤーは独自にギルドのようなものを作っているらしい。序盤の不遇な状況を少しでも早く脱するために、全員で協力する事にしていたようだ」
口火を切ったのは魔術師のマギルである。
「……そうまでして従魔に拘りたいもんかねぇ……」
「モフモフを得るためには苦労は厭わない……そう言い切っていたな。……そんな思いで集まった剛の者たちだけに、『解放者』が何者なのかというのが未だに気に掛かっているらしい」
「タクマのリアフレなんだろ? ……お前、まさか……」
「馬鹿言え、漏らすような真似はせんよ。尤も、漏らそうにもリアフレという事以外、何も知らんのだがな。まぁ、友の会に所属していない野良使役者ではないかと、彼らも見当は付けているようだがな」
「野良……いや、それよりも『友の会』ってなぁ何だ?」
首を傾げる斥候に、魔術師が説明する。
「あぁ、さっき言った使役術師のギルドのようなものだ。正式名称を『不遇な使役職のための集い』というらしいんだが、『使役者友の会』で通じるようだな」
「また……自虐的な正式名称だな、おぃ……まぁ良い、他には何を聞き出せた?」
「初期の使役獣を得る確率とか、成長の違いについてだな」
マギルが言うには、召喚術の場合は確実に召喚獣を得る事ができるらしい。
「ただし何が出てくるかは少し面倒でな。実際に戦った相手が召喚可能リストに載っていくらしいんだが、最初の召喚でリストに無い召喚獣が出てきたケースがあったらしい。それ以降は大体、リストの中から選んで契約できるらしいんだが……。まぁ、ほとんどの場合はトンの町で出くわすモンスターが初期召喚獣に選ばれるし、召喚術自体が最近になってからアンロックされたため、従魔術との違いは中々判らなかったと聞いたな」
「あぁ……召喚可能になった時点で、既に多くのモンスターと戦っていた訳か」
一方で従魔術は、契約する従魔を選ぶ事はできるが、何に出会うのかは完全に時の運。しかもテイムし易さに差があるため、実際に何を従魔にできるのかは、かなりばらつきが出る――筈だったらしい。
「ちょっと待て……筈だった、てのは?」
「そこはほら、不遇と判っていて序盤から使役職を選ぶような業の深い連中だからな。従魔術師を選んだ者は、解放前からどこにどんな従魔候補が出現するのか、予め分布図を作っていたらしい……全員で協力してな」
「……もしかして、モフモフ狙いか?」
「もしかしなくても、そうだ」
「おぉ……」
「そこまでかよ……」
「でな。友の会所属の連中の大半は――モフモフでなくても――使役獣との触れ合いを求めて使役職を選んだ者たちだ。ところが、俺たちみたいに後付けで使役系アーツを取った者は、戦術のオプションとして使役アーツを見ているからな。話が合わないだろうって事で、友の会に勧誘するかどうか、少し揉めてるらしい」
「……そこまでややこしい事になんのかよ……」
「けど、解るような気もするな。使役獣に対するスタンスの違いは、後々火種になりそうな予感がある」
「距離を置こうという判断が間違っているとは言えんが……情報の独占だとか排他主義だとか言い出すやつが出て来るぞ。きっと」
意外に揉め事の火種になりそうな問題であった。使役職にも色々と苦労があるようだ。
「……で、死霊術の方はどうなんだ?」




