序 章 2.篠ノ目学園高校一年三組(金曜日)
リアルサイドの話です。
「わはっ……わははは、はははっ、ははっ!」
入学早々後ろの席で馬鹿笑いしているのは、小学校以来の僕の親友、瀬能原匠だ。僕をスキルリッチ・ワールド・オンライン――プレイヤーはSROと略称しているらしい。そのまま略したらSRWOなんだけど、それじゃぁ語呂が悪いという事で、誰言うともなくSROに決まったらしい――に誘った張本人だ。
「いい加減にしろよ匠。こっちは結構深刻なんだぞ」
「ぷっ……くくっ……済まん。けど……ひひっ……一応はユニークスキルなんだろう? それなりに美味しいんじゃね?」
「……後で説明してやるよ。昼休みにでも」
予鈴が鳴ったので、雑談はそこまでにして入学式に出る準備を整える。僕は一応真面目な生徒で通ってるんだよ、これでも。
・・・・・・・・
で、入学式の後で教科書販売やら説明会やらで午前中を潰して解散になったんだけど、だからといって午後からの予定がある訳でもない。天気も好いし、屋上で弁当でも使うかという話になった。弁当を食べながら匠と駄弁っていると、クラスメイトの女子がやって来た。
「やっぱりここか~」
僕たちが上の階へ上がっていくのを見かけて追いかけてきたらしい。
「よう、茜も弁当か?」
「うん。さっき匠君が馬鹿笑いしてたし、蒐君が開始早々何かやらかしたんだろうなって思うと、矢も盾もたまらなくなって来ちゃった♪」
「ぷっ……くくっ……。そりゃ、本人から聞いた方がいいぜ」
僕は憮然として昨日のキャラクリの顛末を再び説明した。茜ちゃんは匠のように馬鹿笑いせず、親身になって心配してくれた……俯いた時に肩が震えていたのは気にしないよ、うん。
「で、その『スキルコレクター』って、どんなユニークスキルなんだよ? あ、言いたくなけりゃ言わなくてもいいぞ」
「……口にしたくもないけど、聞いてよ。まず、ユニークだけあって、控えに回す事も捨てる事もできない」
「……それ、地味にきついかもな」
「スキルの蒐集という性質上、スキルスロットの上限は撤廃。これは控えスキルスロットも同じ」
「……それ、凄く良いんじゃないの?」
「で、このスキルはレアスキルが集まって来るというものなんだ」
「おい、夢みたいなスキルじゃないか、それ」
「夢は夢でも悪夢の方だよ。序盤で集まって来るスキルの大半は、他のプレイヤーが捨てたレアスキル。これで大体見当が付かない?」
「プレイヤーが捨てたレアスキル……って」
「そ。役に立たないスキルばっかり。ちなみに、『スキルコレクター』の効果で、スキルオーブの購入やクエスト報酬によるスキル取得は原則不可能になってる」
「あの……蒐君、差し支えなかったら今のスキル構成を聞いてもいい?」
「うん、笑えるよ。聞いて驚け、【しゃっくり】【地味】【迷子】【腹話術】だ」
「何……それ……?」
【しゃっくり】対象者は一定時間しゃっくりが止まらなくなる。Lv1では一分間。クールタイムは三分。
【地味】他人に認識されにくくなる。
【迷子】迷子になる。副効果として追跡を振り切る事ができる。クールタイム無し。
【腹話術】自分と離れた任意の位置から声を出す。クールタイム無し。
「……役に立つのか立たんのか、微妙なスキルだな……」
「……役立たずって事は無いんじゃないかな……」
「問題はそこじゃなくて、基本的なスキルを持つ事ができないって点だよ」
うんざりしてそう指摘すると、二人ともはっとした顔付きになった。遅いよ。
「……って、序盤からスキル無しでやれって事かよ」
「何……その縛りプレイ」
「ま、その代わりにステータスの値が五割増だから。何とかなるとは思うけど……」
このゲームでは、スキルが無くても同様の行動は可能だからね。ステータスが高ければそれなりに動けるとは思うけど……こればっかりはやってみなくちゃ判らない。
「マジかよ……何とも判断に困るスキルだな……」
「キャラクリのやり直しはしないの?」
「曲がりなりにもユニークスキルだしね。一応これでやってみるよ」
「そうか……けど、これじゃアドバイスもしにくいな」
「一応βテストプレイヤーだから、助言くらいできると思ってたんだけど……」
「予想外のキャラを作ってきたからなぁ……」
「いや、僕が作った訳じゃないからね?」
本日はあと五話ほど投稿……の予定です。