第五十五章 【迷子】騒動 9.微睡みの欠片亭
「ちょっと、シル! 待ってよ! それは駄目だってば!」
珍しく狼狽えたシュウイの声が、「微睡みの欠片亭」の一室に響く。狼狽の理由は明白で、シルが断固たる熱意をもってマンゴスタの実を食べようとしているからである。
マンゴスタは一件マンゴスチン――果物の女王と呼ばれる――と変わらない見かけながら、とある一点において決定的に違っていた。すなわち、果物の王と呼ばれるドリアンのように、猛烈な悪臭を放つという点である。ちなみに、ドリアンそっくりのドリアという果実は、その外見にもよらず、現実のドリアンのような悪臭は持っていない。おちゃめな運営の悪戯であった。
そんなものを宿の部屋で食べようものなら、異臭悪臭たちどころに部屋に充満し、テロも斯くやという騒ぎになるのは見えている。シュウイが必死で思い止まらせようとするのも道理であった。
こんな事になるのなら、スーファンの宿場町で買った時に食べ方のコツを聞いておけば良かったと後悔するが、今となっては手遅れである。結局、明日フィールドに出た時に食べさせるからと宥めすかして、その晩はなんとか事無きを得た。
どうにか納得してくれた様子のシルを見ながら、シュウイはポツリと呟いていた。
「……錬金術か調薬で、臭い成分を分離できないかなぁ……」
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そんな一幕喜劇はあったものの、ともかくシュウイはいつもの日課、すなわち自分のステータスの確認に入る事ができた。
「おぉ……【迷子】の他に、【解体】と【落とし物】のレベルが上がってる……。【落とし物】はとうとう10の大台に乗ったかぁ……最初の二桁レベルがこれっていうのもなぁ……」
普通なら武器スキルとか魔法スキルが上がるのだろうが。
自分のアウトサイダーっぷりに少し凹みそうになったシュウイであったが、気を取り直して確認を続けていく。
「あ……新しいスキルが……ひのふの……わぁ、六つもある。最近拾ってなかったんだけど……あぁ、そうか、スーファンの宿場町に行ったからかな」
運営がスーファンの町に仕込んでおいたレアスキルを、どうやら根刮ぎにしたらしい。運営の呪詛と怨嗟と悲嘆の声が聞こえるようだ。ちなみに、サンドウルフの【偽装】スキルまでは拾わなかったようだ。ラプラスの神の配剤であろうか。
ともあれ、自分のスキルを確認し終えたシュウイは、いつものとおりに就寝するのであった。
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★《シュウイのスキル/アーツ一覧》
レベル:種族レベル8+
スキル:【しゃっくり Lv2】【地味 Lv6】【迷子 Lv3】【腹話術 Lv2+】【解体 Lv9】【落とし物 Lv10】【べとべとさん Lv3】【虫の知らせ Lv8+】【嗅覚強化 Lv7+】【気配察知 Lv7+】【土転び Lv3+】【お座り Lv3】【掏摸 Lv0】【イカサマ破り Lv5】【反復横跳び Lv4】【日曜大工 Lv3】【通臂 Lv1+】【腋臭 Lv1】【デュエット Lv5】【般若心経 LvMax】【弓術(基礎) Lv5】【狙撃(基礎) Lv7】【投擲 Lv6】【器用貧乏 Lv5】【飛礫 Lv6】【擬態 Lv3】【ウェイトコントロール Lv3+】【隠蔽 Lv3】【疾駆 Lv3】【給水 Lv3 霊水に統合】【古道具屋 Lv1】【聴耳頭巾 Lv5】【大食い Lv0】【闇魔法の素地(オーク) Lv0】【木登り Lv3】【霊水 Lv2】【福笑い Lv0】【掘り出し物 Lv0】【堆肥作り Lv0】【ろくろ首 Lv0】【メビウスの壁 Lv0】【整理整頓 Lv0】
アーツ:【従魔術 使役術に統合】【召喚術(仮免許) 使役術に統合】【杖術(物理) 皆伝】【調薬(邪道) 初級(仮免許)】【錬金術(邪道) 初級(仮免許)】【火魔法(オーク) Lv3】【土魔法(ホビン) Lv3】【水魔法(ホビン) Lv0】【暗器術 初級 Lv2】【聖魔法 初級 Lv1】【死霊術(ネクロマンシー)(聖) Lv1 使役術に統合】【使役術 Lv1】
ユニークスキル:【スキルコレクター Lv7】
称号:『神に見込まれし者』『ホビンの友』『ツリーフェットの友』『霊魂の友』
『泉の精霊に祝福されし者』『泉の精霊の謝罪を受けし者』
従魔:シル(従魔術)