第五十五章 【迷子】騒動 8.「ナントの道具屋」
「バランド薬剤店」での用事を済ませたシュウイは、その足で「ナントの道具屋」へと向かった。スーファンの宿場町で求めた土産物の果実を渡すためだ。ちなみに、バランドには既に手渡し済みである。
ひょんな弾みで妙な場所に飛ばされたので、そこで入手した珍しい果物を手土産として渡す。ただそれだけの筈であった……シュウイの視点では。
・・・・・・・・
「あの……ナントさん?」
「ナントの道具屋」へ行くとまだ店は開いていたので、中に入ってナントに今日の出来事を報告し――やっぱり驚かれ、呆れられた――ついでにお土産ですと言ってドリアの実――と、ちょっとした悪戯心でマンゴスタの実――を取り出したところ、ナントが硬直してしまったのだ。
再起動の方法が判らないシュウイとしては、恐る恐る声をかけるくらいしかできない。これがタクマなら試しに引っぱたいているところだが。
「ナントさん? 大丈夫ですか?」
「あ……あぁ、シュウイ君、大丈夫。ちょっと驚いただけだから」
はて、驚くような事があっただろうかと訝るシュウイに、ナントが諦めの入った口調で事情を説明する。
「いや……シュウイ君がソレを取り出した瞬間に、クエストが始まったもんだから……」
「……はぁっ!?」
・・・・・・・・
しばらくして落ち着いたナントが訥々と話すところによると、前触れも無く唐突におっ始まったのは、ドリアとマンゴスタの献上クエストらしい。何でも、ペイの町へ行く街道が通行止めで、ドリアもマンゴスタもこのところ流通していないため、結構な高値になっている……という設定らしい。
「……多分だけど、本来はこれって街道の開放クエストに付随するクエストなんだろうね」
「街道の開放……ですか?」
「うん。運営からの情報では、トンの町から始まって、ナン、シア、ペイと順番に開放されていくみたいだから」
「……本来はずっと先に発生する筈が、【迷子】のせいで早まったと」
シュウイの認識では、あくまで原因は【迷子】スキルであって、自分ではない。
「そういう事だね。ただ、運営からのインフォが流れていない事から判断して、街道の開放はされていないみたいだけどね」
「さすがに【迷子】による移動なんて、再現性がありませんからねぇ……」
「それで……ドリアとマンゴスタを売ってもらえるかな?」
「それは構いませんけど……友人の土産にもしたいので、全部という訳には……」
――タクマにやるのはマンゴスタ一択だな。他の人にはドリアで好いか。
「あぁ、うん。勿論だよ。このクエストでは、献上する数は問題にならないみたいだから」
それなら、という事で、シュウイは手持ちの果物の一部をナントに売却する事にした。適正価格など解らないため、単純にスーファンで購入した額の三割増である。シュウイには充分な暴利だと思えるのだが、流通が止まっている――という設定――現状を考えると、寧ろ安過ぎる可能性が高いという。
「まぁ、その辺はクエスト終了後に調整しよう」
「済みません……けど、ナントさん、街道が開通していない現状でこのクエストを受けて、何か意味があるんでしょうか?」
「将来の権益を得るチャンスを逃すようじゃ、一人前の商人とは言えないよ」




