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第五十五章 【迷子】騒動 7.「バランド薬剤店」

 【迷子】のアンドゥ機能で無事にトンの町に戻ってきたシュウイであったが、そろそろ夕暮れが近くなってきた。バランドとナントを訪問するには遅いだろうか?



(う~ん……まだ日は暮れてないし……大丈夫だよね。……うん、師匠のところもナントさんのところも、どっちもお店なんだから、開いていれば大丈夫な筈……)



 と、一人で納得して、シュウイはまず「バランド薬剤店」へと足を向ける。プレイヤーの一人としては、チェーンクエストを片付けるのが第一だろう。


 薬剤店が見える場所までやって来ると、幸いにしてまだ店は開いていた。



「今日は~……ご無沙汰しています」



 戸口を潜ったシュウイは、()()ずと店の中に声をかけた。



「……うん? おぉ、なんじゃ、お主か」



 どうやら(うたた)()を決め込んでいたらしいバランドが、むくりと顔を上げた。



「お久しぶりです、師匠。今日はお届け物を預かってきました」

「届け物……? (わし)にか?」

「はい」



 不得要領な顔のバランドに、スーファンの宿場町の(くす)()から預かった薬と手紙を手渡した。

 (いぶか)しげに手紙を受け取ったバランドは、差出人の名前を見て目を見開いた。



「……お主、いつの間にスーファンの町へ行ってきた?」

「えーと……なんかよく解らないうちに飛ばされて……けど、多分もう行けません」

「何じゃそれは?」



 バランドが困惑するのも無理からぬ話であろう。



・・・・・・・・



「……つまり、お主の身に宿った妙な力のせいという(わけ)かの?」

「はい。何でかそういう羽目になって……」

「異邦人というのも、中々難儀じゃのぅ……」



 シュウイの奇妙な体質については、異邦人ならそういう事もあるのだろうと納得する事にしたようだ。他の異邦人(プレイヤー)が耳にしたら、猛然と抗議が殺到しそうである――金箔付きの例外と一緒にするなと。



「しかし、謝礼を渡すのは構わんのじゃが……」

「作り方を教えてもらうのと、実際に作れるかどうかは別ですよねぇ……」



 シュウイが荷物をバランドに渡した時点で、ウィンドウに「クエスト終了!」の文字が現れたから、チェーンクエスト自体は首尾良く終了したのが判った。


 二人が頭を悩ませているのは、シュウイがクエストの報酬として得る事になった魔力回復薬のレシピの件である。


 繰り返すがこのクエストは、トン・ナン・シア・ペイの四つの町を巡ってきたプレイヤーが、ペイの町とトンの町を結ぶ街道を開放するというクエストである。当然クエストに参加するプレイヤーは、中級から上級の【調薬】アーツを持っている筈だと想定されていた……正規のルートであれば(・・・・・・・・・・)


 ところがシュウイは、【迷子】スキルでトンの町からいきなり飛ばされて来た、なりたてのEクラス冒険者。加えて保有している【調薬】も普通ではなく、【調薬(邪道)】という斜め上のアーツである。しかも初級(・・)

 早い話が、レシピを教わったとしても、それが作れるかどうかは大いに大いに疑わしいのであった。



(くす)()としては、使えもせん製法(レシピ)を教えるのというのは承服しがたいんじゃが……」

「僕としてもありがたくないです……」



 作れる可能性が少しでもあるのなら別だが、報酬のレシピは()りにも()って上級の魔力回復薬。現在のシュウイの技術では、調合などてんで無理なレベルである。せめてもう少し使い勝手の良いものを、と言いたくなるのが人情というものだ。



「ふむ……上級は無理じゃが初級の回復薬なら……お主に教えたのは等級外ポーションだけじゃったな?」

「はい。……時々は作ってますけど、自分で使う分だけなので……」



 専門の(くす)()でないシュウイは、自作のポーションを回復用のドリンク代わりに飲む程度である。数をこなしていないので、経験値はそれほど稼いでいない筈だ。



「【調薬】のレベルは上がっておるのか?」

「……済みません……色々あって、まだ初級を取っていません。……あと一つ「抽出」の課題をクリアーしたら、初級を名告(なの)れる筈なんですけど……」

「つまり、ほぼ王手(チェック)がかかっている(わけ)じゃな。ならば早急に初級を取れ。そうしたら、初級の体力回復ポーションと魔力回復ポーションの作り方を教えてやろう」

「本当ですか!?」



 SRO(スロウ)の中でプレイヤーが【調薬(初級)】を修了するためには、初級の体力回復ポーションおよび魔力回復ポーションの作製に連続して二回以上成功する必要がある。逆に言えばそれ以外の作製は必須ではない。それが見えてきたのだから、シュウイならずとも食い付こうというものだ。

 (もっと)も、単にレシピを教えるだけなら、【調薬(初級)】の段階に入るのを待つ必要は無い。見習いである現状でも初級の製法を教わる事はできる――単に成功率が非常に低いというだけである。バランドとしては、薬の原料が無駄になるような事は避けたいというのが本音のようだった。



 ともあれ、シュウイとしては可及的速やかに「抽出」の課題をクリアーして、【調薬(邪道)】の初級に入る――すなわち仮免許を卒業する――事が当面の目標となった。

2019年3月22日(金)~5月6日(月・祝)にメロンブックス全店で開催される異世界コミックフェアで、本作のコミカライズ版も対象になっており、1冊ご購入につき描き下ろしミニ色紙風イラストカードを1枚プレゼントとなります。詳細はホームページなどでご確認下さい。

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