第五十五章 【迷子】騒動 6.スーファンの宿場町(その4)
チェーンクエストとなった依頼を受け、後はアンドゥ機能で戻るだけとなって余裕を取り戻したシュウイは、スーファンの商店や露店で売られているもののチェックを行なっていた。
『う~ん……町の規模があんまり大きくないせいか、それほど珍しいものは……って、シル、どうしたのさ?』
懐中にいたシルが何やらガサゴソと動いて、シュウイの注意を引こうとしている。気になったシュウイがそちらの方向へ歩いて行くと……
『おぉ……果物のお店だ。シルが騒いでいたのはこれかぁ……』
トンの町でも見かけた事のある果物に混じって、初めて見るような果物が色々と並んでいる。
『これは……全種類制覇するべきだよね。やっぱり』
太平楽な野望を胸に、シュウイは無造作に果物を選んでいく。基本的にSROでは、店に売られている果物はどれも美味い事が判っている。【錬金術(邪道)】と【調薬(邪道)】の方も、あとは「抽出」を一つ実行すれば初級の課題はクリアできるので、素材かどうかに気を配る必要も無い。なので特に「素材鑑定W」を起動する事もしていない。
そんなシュウイの目に留まったのは、リアルでも見た事のある果物であった。
『これってドリアンだよね? それにマンゴスチン。果物の王と女王が揃い踏みかぁ……』
ドリアンは「果実の王」という名で知られているが、それ以外に「天国の味わいと地獄の臭い」というキャッチフレーズでも知られている。
『……知り合いへのお土産はマンゴスチンの方にするか。ドリアンは匠――タクマに食べさせよう♪』
などと悪巧みをしつつ買い込んだところで気が付いた。
――あの運営が、そんな当たり前の事をするか?
すんでのところでその事に気付いたシュウイは、慌ててドリアンとマンゴスチン……と思った果物に「素材鑑定W」をかけてみる。
【食品アイテム】マンゴスタの実 品質B レア度4~5
常緑小高木の果実で、暗紫色の硬い外皮の中に種子を包んだ白色の果肉が四~八個入っている。クリーム状の果肉は甘く口の中で溶けるような食感があり、「果物の女王」と称されるが、独特かつ非常に強い臭気がある。
【食品アイテム】ドリアの実 品質B レア度4~5
常緑高木の果実で、表面には硬い刺が並んでいるが、種子の周囲にはクリーム状の果肉があり、食用にされる。その味わいから「果物の王」と称されるが、保存が利かないのが欠点。生食するほか、ジャムやアイスクリームに加える事も多い。
(あ……あっぶねぇ~……ドリアンとマンゴスチンが逆だよ……)
見かけはドリアンのような果実に悪臭が無く、逆にマンゴスチンのような果実に悪臭があった。お茶目な運営の罠である。地元では良く知られた事なのか、店員も殊更何も言わずに売っていた。リアルと同じに考えていたら大惨事であろう。すんでのところで、シュウイはその可能性に気付けた訳であるが……。
(まぁ……珍しいには違いないだろうから、お土産には良いだろうね)