第五十五章 【迷子】騒動 2.運営管理室
「どういう事だ!? あの少年はどこへ消えた!?」
シュウイがSROに参加してからというものすっかりお馴染みとなった怒号が、今日も運営管理室に響いている。
尤も、本日の怒号はいつもと少し趣が違うようだ。
「……いました! ターゲットの存在を確認! 場所は……え……?」
「どうした、中嶌!?」
「どこにいるんだ!?」
物凄い形相で詰め寄ってくる同僚の剣幕に恐れをなしたか、諦めたような表情で中嶌が答える。
「場所は……『スーファンの宿場町』です」
一瞬ポカンとした表情で黙り込んだ一同であったが、数秒後には更に大声で喚き立てる事になった。
「スーファン!?」
「馬鹿な! 未開放の町じゃないか!?」
「大体、どうやったらこんな短時間に移動できるって言うんだ!?」
「そうだ、ワープでもしないと無理……ワープ……?」
「……そう言えば、そんなスキルがあったような……」
嫌な予感を、途轍もなく嫌な予感を覚えて押し黙る一同。
「……あった、【迷子】だな。SRO内でのランダムワープを発動するスキルだ」
そして、そういう空気を読まずに、あるいは空気を無視して、淡々と不都合な真実を突き付けてくる徳佐。
「……待て、徳佐。確かに【迷子】はランダムワープを発動するが、だとしても移動距離がおかしくないか? 仮にレベル3に上がったとしても、その程度で移動できる距離じゃないだろう?」
「そこは俺にも解らないな。……中嶌?」
大楽の質問に、それを俺に訊くのは筋違いだと、先程からログをチェックしていた中嶌に話を振る徳佐。
「……あの……神の奇跡、もしくは悪魔の悪戯と言えるレベルです」
「「うん?」」
「レベル2のワープの際に、彼がいるのと全く同じ座標が選択されてキャンセル、使用されなかったエネルギーを抱えたままレベル3のワープを実行、繰り越し分のエネルギーも使用する事で、スーファンの宿場町まで跳んだみたいです」
「「……は?」」
補足説明が必要であろう。
SROにおけるスキルはプレイヤーのMPを消費して発動するが、何らかの理由――どんな理由かまでは想定していない――で、スキル発動のために徴集されたMPが余ってしまう可能性が考えられた。そういう場合は、状況に応じて幾つかの対応がなされるようにプログラムされていると考えてほしい。
今回シュウイの身に起きたのは、現在地と寸分違わぬ場所が転移先として選択されるという、それこそ微レ存――微粒子レベルで存在――と言うに相応しい低確率の現象であった。結果、移動のために徴集したMPは、ほとんど消費されずに持ち越される事になった。
ここでシュウイの持つスキル【器用貧乏】が実に好い仕事をして、間髪入れずにスキルのレベルが上がる。そのため、ほとんど立て続けと言って良いタイミングで、【迷子】が次なる発動に踏み切ったのである。何しろ前の発動はキャンセル扱い、従ってクールタイムの問題は無い。持ち越し分のMPまで使用してワープを行なった結果、運営が想定していない距離の移動が可能になった……少なくとも、ログからはそう読み取れた。
「……何て事だ……」
「……さすがトリックスターだな……突拍子もない事をやってくれる……」
シュウイのせいではない。……多分。