第五十三章 SRO特殊鋼事始め 4.東の採掘場
トンの町の東、シュウイが散々にモンスターを狩り荒らした草原とは少し外れた荒れ地に、目当てとなる採掘地があった。
「この辺りはあんまりモンスターがいないんですね」
「……あぁ……そうだな……」
新人はおろかそこそこレベルの上がったプレイヤーでも手子摺る筈のモンスターを事も無げに斃しただけでなく、あっさりと獲物呼ばわりするシュウイに、さすがのテムジンも少し引き気味であった。
「……まぁ、採掘をする分にはありがたいんだが……」
「ですね。採掘中にちょっかいをかけられると面倒ですもんね」
普通は面倒ぐらいでは済まないんだがと思いつつ、テムジンはとりあえず頷いておく。大局的にはシュウイの感想も間違ってはいない。
「……とりあえず、このあたりの母岩を鑑定してみてくれるか?」
「解りました」
シュウイの【素材鑑定W】によると、こちらの母岩にも西の採掘場と同じような稀少金属が含まれていた。ただし……
「やっぱり含有量が低いですね」
「稀少金属の量から見ると、西の採掘場の方が優秀な訳か」
「そうなりますね」
「まぁ良いだろう。今回の主目的はそっちではないからな」
今回彼らの主目的となった触媒植物の方は、幸いにして充分な量が確保できそうな気配であった。
「ここは他の採掘地よりも規模が大きいからな。そこそこの量が採れるだろう」
「そこそこっていうか……生えてる量からすると五倍以上じゃないんですか?」
「それくらいはいきそうだな。とすると……触媒の方はここだけで足りるかもしれないな。稀少金属の含有量はどうなんだ?」
「西の採掘場の半分以下ってとこですかね。あまり効率的とは思えません」
「鉄鉱石の品質としては充分なレベルなんだが……」
「だったら、ここでは鉄鉱石狙いで掘りますか?」
「……そうだな。確かに鉄鉱石も必要なんだし、ここで掘っておくか。あの運営の事を考えると、産地を揃えた方が好いのかバラした方が好いのかも、検討しておく必要がありそうだ」
「あ~……確かに……」
考え過ぎである。
素材の産地まで変数として扱うような余力は、運営にも開発にも残っていない。
しかし二人はそんな事情を忖度する事は無く、疑わしきは疑うという方針に従って採掘していく事を決めた。
まぁ、折角ここまでやって来て、鉱石を掘らずに帰るというのも確かに馬鹿らしい話ではある。
「けど、テムジンさん、優良鉱山の割には人がいませんね?」
「それはまぁ……普通はここまで来るにもモンスターの襲撃を退ける必要があるからな。最低でもパーティ、場合によってはユニオンを組んで来るのが普通なんだ」
「普通」という語にやや力を込めたテムジンの説明を――少しだけ不思議そうな表情を見せて――聞いていたシュウイがポツンと呟きを漏らす。
「勿体無いですねぇ……こんな好い場所を……」
シュウイが「好い」と評する理由は、モンスターと鉱石の二つの素材が豊富に得られるという事なんだろうなと、察しを付けたテムジンであった。