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第五十三章 SRO特殊鋼事始め 3.テムジン工房

 大漁の母岩と草木を回収して工房に戻ってきた二人は、シュウイが【分離(特殊)】によって抽出した稀少金属(レアメタル)を前にして途方に暮れていた。



「……まさか、ここまで少ないとは……」

「……微量(レア)の名は伊達じゃありませんね……」



 回収できた稀少金属(レアメタル)の量はその名に違わず微量であり、鋼のインゴット一つに付与するのにも足りなかった。まして、特殊鋼の作製に当たっては色々と試行錯誤を重ねる必要があるのだ。今後を考えると、更なる量を確保する必要がある。

 だが、稀少金属(レアメタル)自体は、追加で掘りに行けばいいのだからまだ何とかなる。問題は……



「テムジンさん、やっぱり触媒も足りませんよ……」



 ネックとなっているのは触媒の方であった。

 原料となる草木灰から回収できた触媒元素もやはり微量でしかなく、試作を行なうには到底足りないのであった。しかも、このゲームでは……



「薬草とかだと、採ったすぐ後には生えませんよね?」

「あぁ、リポップするまでにゲーム内時間で最低でも一日、場合によっては十日以上かかるものもある」

「この草とかは……」

「甘い期待はしない方が良いだろうな」

「あの運営ですからねぇ……」



 運営からすれば「お前が言うな!」と言いたくなるだろうが、そんな忖度(そんたく)は微塵もせずに、シュウイはテムジンと溜息を()いた。



「栽培する事って、できるんでしょうか?」

「どうだろう? 土壌条件とかを考えると、普通の土ではできない仕様じゃないだろうか」

「ありそうですね……」



 万一の事を(おもんぱ)って、二人は草木を採り尽くしてはいない。しかし、再度採集に向かえば、根絶やしにする事も覚悟しなくてはならない。



「……確か、このゲームって……」

「あぁ、薬草を採り尽くした場合は、再び生えてくるのに年単位の時間がかかる仕様になっている」

「これも当然そうでしょうね」

「間違い無いだろう」



 二人に選択の余地は無かった。



「他の場所に行くしかないだろうな」

「他の……トンの町の近くに、他にも採集場所があるんですか?」

「あぁ、もう少し上質な鉄鉱石が採れる場所が幾つかある。確かそこにも生えていたのを見た記憶がある」



 二人の目的は鉄鉱石でなく不純物であったため、上質の鉄鉱石、すなわち不純物の少ない鉄鉱石しか採れない場所は、早々に候補地から外していたのだ。

 しかし、この様子ではそれらの場所も訪れる必要がありそうだ。



「……テムジンさん、その場所の中で、一番行きたくない場所ってどこですか?」

「? ……行きたくないといえばモンスターの多い東だが? ……そうか!」

「えぇ。ここの運営なら、最終的にそこへ行かないと、必要量が採れないくらいの仕込みはしてるんじゃないかと」

「うむ。大いにありそうな事だ」



 誤解である。


 確かに東の採掘場には必要とする母岩も草木も豊富にあるが、特殊鋼のための素材を得るのにそこまで行く必要は必ずしも無い。

 三ヵ所程回れば最低限の必要量は確保できるし、ゲーム内時間で三日ほどすれば触媒用の草木もリポップする仕様になっていた。

 しかし、既に色々とやらかしているここの運営の事でもあり、二人はそんな甘っちょろい可能性など(はな)から考えもしなかったのである。



「多少の危険はあるが……行くかね?」

「えぇ。この際ですから行っちゃいましょう」



 運営の厚意善意など、()(じん)も当てにしない二人であった。

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