第五十二章 休日(土曜日) 4.とあるファミレス(その4)
「……『ブランド薬剤店』ねぇ……」
「うん。匠は知ってるか?」
「知らねぇな。茜と要はどうなんだ?」
「あたし、知らない~」
「私も知らないわね……それなりにナンの町は歩いた筈なんだけど」
「じゃあやっぱり、新たに解放された住人って事なのか?」
「その可能性が高いわね……ただ、問題なのは、このキャラクターが以前から準備されていたのかどうかよね」
「……あぁ、蒐が色々とやらかしたんで、運営が監視のために送り込んできた新キャラって可能性か?」
「そう、その可能性も無視はできないと思う」
「蒐君、問題児~?」
「何でだよ!?」
憤慨する蒐一を横目で見つつ、匠が要に異論を呈する。
「けどよ要、新キャラって、そう簡単に準備できるものか? プログラムはバランドさんのコピーで好いかもしれないけど、AIを動かすリソースも要るんだぞ? たかが一人の変人プレイヤーのために、そこまでするか?」
「おい匠! 変人って何だよ!?」
「それは……そうね」
「だろ?」
「おいってば! 無視するなよ!」
「はいはい蒐君、あ~ん」
「……ありがと、茜ちゃん」
蒐一の懐柔は茜とパフェに任せて、匠と要は相談を続ける。
「だったら、弟さんは予め準備されていたキャラって事になるけど……それってやっぱり弟子入りクエストの一環なのかしら?」
「シナリオの進行につれてプレイヤーが拠点を動かす事を考えると、救済措置の一種なのかもな」
「別の見方をすれば、異邦人と住人との絆を保つための仕掛けとも言えるわね」
「要の言う交流促進の一環か?」
「あ、師匠、『どこへ行こうと師弟の縁は切れない』って言ってた」
会話には参加せずとも聞き耳を立てていたらしい蒐一が、場外から割り込むようにして一石を投じた。
「……そういう事なら、要の意見で正しいのかもな」
「ねぇねぇ、それって結局どういう事になるの?」
「そうね……攻略者風に言えば、住人と良い関係を築く事ができれば、先々でも何かとメリットがある、といったところかしら」
「逆に悪い評判が立ったら、後々までも祟るって事だよね」
「悪事千里を走るって言うからなぁ……」
「注意一秒、怪我一生って事?」
「……当たっているかもしれないわね」
ここで蒐一はSRO内での知り合いの事を思い出す。
人間ではない知り合いの事を。
「……ねぇ、要ちゃん、その評判ってさぁ、人間以外でもあり得るよね?」
「人間以外……?」
「あ! ホブゴブ……じゃなくて、ホビンか!?」
「そう。それとツリーフェット」
「……それを言うなら、精霊の話も関わってきそうよね……」
むぅと一同考え込んだところで、またしても茜が爆弾を放り込む。
「あ、だったらさ、【従魔術】や【召喚術】を持ってても、モフモフさんに相手にしてもらえない可能性もあるって事なの?」
「「「!?」」」
茜が投じた特大の爆弾に、言葉も忘れて硬直する三人。こうなると、【従魔術】より寧ろ【死霊術】の方が使い勝手は良いのかもしれない。
「……言われてみれば……」
「考えられなくもないかな……」
「いえ……あの運営なら、必ず考えているでしょうね……」
今まで以上の爆弾を抱え込んで、途方に暮れる三人。
「どうするよ……これ」
匠の問いかけに答える者はいなかった。