第五十二章 休日(土曜日) 1.とあるファミレス(その1)
休日となった土曜日、蒐一たちはボウリングを五ゲームほど楽しんだ後、少し遅い昼食を摂りにファミリーレストランに入っていた。学校帰りに時折立ち寄る「ファミリア」ではなく、ボウリング場の近くにある別の店である。ちなみにボウリングの成績は、いずれも運動神経が良いだけに接戦となったが、ボウリングに慣れているかどうかが分かれ目となって、蒐一が最下位を喫していた。
「や~、蒐君、ゴチ~♪」
「遠慮無くご馳走になるわね、蒐君」
「うぅ……懐具合が厳しいのに……」
「ま、誘いに乗ったのは蒐だからな。諦めろ」
「数時間前の自分を呪ってやりたい……」
「まぁまぁ蒐君、今日は茜ちゃんの奢りなんだから、機嫌を直して」
「ドリンクバーくらい奢ってよ~」
さすがに三人分の食事代を賭けるような無茶はせず、ドリンクバーの代金だけであったのだが、それでも慎ましい生活をしている高校生には結構な出費である。
ともあれ銘々が注文を確定し、食事を済ませる間は会話も静かなものとなった。食事時には一意専心に食事に励むのが、正しい高校生のあり方である。会話に熱が入って料理が冷めたら悲しいではないか。
そういう訳で、SROに関する話題が話に上ったのは、全員が食事を終えてデザートに進んだ頃になった。
「いや~……荒れてたな、掲示板」
口火を切ったのは匠である。お題は、昨日のうちに――関係各位の同意の下に――ワイルドフラワーのリーダーであるエリンが従魔掲示板に投稿したネタの事であった。ちなみに、カナは少し様子を見るように進言したのだが、下駄を預けられた形のエリンが、こんな爆弾長く抱えていたくないとばかりに、すぐさま掲示板に流したのである。
「そりゃ……ねぇ……」
「蒐君の【死霊術】解放で加速しているこの時に、【従魔術】に続いて【召喚術】と【死霊術】まで、後付けで取得可能なんて事になったんだものね」
「でもさ要ちゃん、みんな【従魔術】の時点で予想はついてたんじゃないかな?」
「蒐君、予想と現実は別だから」
「茜ちゃんの言うとおりね。ある程度予測はしていたにせよ、実際に取得可能という現実を突き付けられたら動揺するでしょうね」
「しかも、今回は時間制限ありって可能性まで上げてたからな。あれって、要の差し金か?」
「人聞きが悪いわね。未確認ではあるけど重要と思われる情報なので投稿するように、リーダーにアドバイスをしただけよ」
しれっとした顔で言ってのける要。
「いや……そのお蔭で加速が超加速になったんだからな?」
時間の猶予が無いと察した魔法職の中には、パーティメンバーとの相談もなく、独断でキーパーソンとなるNPCの捜索に走った者もいるようだ。
「まぁ……実際に使うかどうかは後にして、今はとりあえず取得しておく――って方針も、あながち間違いとは言えないけどな」
匠の発言を聞いて、SRO内がお祭り騒ぎになっているらしいと察した蒐一が、それならという感じで問いを放つ。
「あ、だったらさ、僕みたいに【使役術】を取得した人もいるのかな?」
無邪気な質問は、しかし三対の白い視線によって迎えられた。
「……あの……?」
「蒐、みんながみんなお前みたいに、スキル枠を気にしないでいられる訳じゃないからな?」
「似たような効果のスキルを複数取得したりはしないのよ?」
「え? でも、使役系の三スキルは統合されるから、スキル枠は空く訳じゃん?」
「蒐君? それを公表してほしい?」
「誰がそんなスキルを持ってるのかって話になるぞ?」
「従魔板の住人に該当者がいないとなると、自ずと範囲は絞られるわね」
「密かに従魔持ち、なんてプレイヤーはまず疑われるな」
「その上で、私たちと知り合いという事になると……」
「む~……蒐君が魔女裁判を受けている未来が見える~」
「だな」
「言い得て妙ね」
幼馴染み三人の容赦の無い指摘に、がっくりと項垂れる蒐一。
「しばらく内緒にして下さい……」